6 歓迎されてはいないようです
離宮とは、皇帝とは別に人が住まう場所。言ってしまえば、愛人達のための場所のことだ。離宮の中でも、建物が別れていて、エメラルド宮、ルビー宮、アクアマリン宮、シトリン宮。私が住まうことと鳴るのはムーンストーン宮とやら。
なんだかややこしくなりそうな予感しかしないわね。愛人であるけれど、発言には気をつけないと…。
ムーンストーン宮に向かい歩きながらも、考えこんでしまう。
小説の物語だと、アルベイン陛下が冷徹冷酷の〝血被りの皇帝〟と呼ばれる原因となったのは、陛下が自身の愛人を全員皆殺しにしたからだと言われている。その原因は、小説では明かされなかったけれど…。
…私ってさ。このままじゃ、アルベイン陛下に殺されない?小説の設定上だとさ。
でも、あと5日までは我慢しないと…。だけど、私が求婚してしまったから一方的に婚約破棄することはできないわよね?いっそのこと、国外逃亡の準備でもしておいたほうがいいのかな…。
ううん。それよりも、そうなったアルベイン陛下をとめればいいだけよ!なにか、愛人を殺した理由もあったんだろうし…。多分だけれど。
結局、小説の中じゃあ、セリーナのパトリック殿下の熱い思いを見せつけられてしまう。彼はパトリック殿下との乱戦には勝ったものの、自ら自害を選んでしまったのだ。しかも、諦めた表情を浮かべて。
で、皇后を作らずに皇帝は亡くなってしまったから、世代交代がすぐには見つからない。だからこそ、クリスチャーはセイントルに属国とされてしまった。
なんだか裏がありそうな予感がするわよね、この国。うわぁ、考えるだけで頭が痛い。
「あら?見たことのない顔ね。…新入りかしら?」
ムーンストーン宮に向かう道を歩いていると、突然として背後から声をかけられた。振り返ると、私よりも少し上背のある美貌の女がワイングラスを片手に立っていた。側にはたくさんの侍女たちが立っている。
…エメラルド宮の人?もしかして、愛人の…!?
私はすぐさま、自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。ミア・グリンフォードと申します。本日から、ムーンストーン宮への立ち入りが許可された者でございます。」
私は陛下の愛人であるから、侍女なんかじゃないわよ。
「あぁ、陛下の。どうりで、見ない顔がいると思ったわ。」
彼女はしなやかに一礼をとった。
「私はリーゼ・ガルクラ。エメラルド宮のものでございますわ。今後とも、よろしくお願いいたしますね。」
リーゼ・ガルクラ。確か父親が石油授業を成功させたという自国の王家からも最寄りとされる侯爵家令嬢。だからこそ、傲慢な〝悪女〟と呼ばれていた。だけど、リーゼはアルベイン皇帝に殺される。
リーゼの父、ラングレア・ガルクラは娘を溺愛していた。そのため、娘を殺害したとされる男をパトリック殿下と勘違いをして襲いに行ってしまう。まぁ、最終的には巫女であるセリーナに惚れ込みまるで実の娘かのように溺愛をする。セリーナのためにだったら何でもするという男となってしまうのだ。
って小説には書かれていたけれど…。
どこをとっても、リーゼは身なりの良い気品のあるご令嬢にしか見えない。どういうことなの?
「では、このワインもミア様の祝福のねぎらいになりそうですね。」
リーゼはグラスをニヤリとした目で、見つめていた。そして私の方へ近づいてくる。
「どうぞ、ミア様がお飲みくださいませ。」
「…あ、ありがとうございま」
そのときだった。彼女がなんと私の頭の上からワインをかけてきたのだ。
「あら?ごめんあそばせ。手が滑ってしまいましたわ。」
…いや、絶対わざとでしょ?それ。煽っているの?
私はびしょびしょになった髪をかきあがて口を開いた。
「そうですか。いえ。これは、リーゼ様の愚かな行いを察知することのできなかった私の不注意でございますので。どうか、謝らないでくださいませ。」
「…っ!ちょっと!それって、どういう意味よ!」
彼女がワイングラスを持ったまま手を振り上げた瞬間、後ろで立っていた執事がその手首を握った。
「このような行為はおやめください。」
「…ッチ。」
彼女は舌打ちを打ったのち、呼吸を整えて私の方を見て笑顔を取り戻し言った。
「これから、よろしくお願いいたしますわね。」
「えぇ。お願いいたしますわ。」
***
リーゼと実際に対面して分かったことがある。おそらくは、リーゼのあの設定は本当のことなのだろう。まさに悪女って感じだった。
まぁ、私も小説の設定じゃあセイントルの悪女だけど。
もしかしたら、私はこの国の者に歓迎されていないのかもしれない。
そのときだった。急に私の髪の毛にやわらかな感触がよぎる。どうやらタオルで誰かが私の髪を包んでくれたようだ。
「お嬢様、失礼致します。」
「えぇ、ありがとう。」
執事にお礼を言ったあと、少し考えてしまう。
そういえば、ロンって私がワインをかけられたときに何もしてこなかったわよね?だけど、私がワイングラスで頭を殴られそうに鳴ったときは助けてくれた…。
私が死ぬ可能性があるときにしか助けないのかな。もしや、陛下の命で?
いやでも、彼は暗殺者だし…。まさか、自分の手で標的を殺さないと気がすまないタイプ!?
だけど、おそらくは離宮ではこんな嫌がらせが日常茶飯時になるだろうな。だから、自分でなんとか対処できるようにしないと。
ひとまずは、あと5日は耐えてその後は国外へ逃亡しましょ。
「…。」
執事であるロンはずっと私を見つめていた。私はその視線には気づかなかった。




