4 両親からの呼び出し
両親に呼び出しを食らってしまった。まぁ、当たり前のことだ。婚約者がいながら皇帝陛下に求婚をされ、おまけにこの屋敷に来たのだから、耳に入るのは当然のこと。
おそらく、パトリック殿下の耳にも入っているだろうが…。今頃、こちらに向かってきていたらどうしよう。なにせ、あと6日の命なんだもの。小説の世界の話ではだけどね。
「ミア。これは、一体どういうことなの?クリスチャー国のアルベイン皇帝陛下に求婚をされたですって?」
母が扇子を持ちながら、私に言った。母の名はナナ。名前の由来は誕生日が7月7日であるかららしい。まぁ、そんなこと今はどうでもいいことだが。
なにやら、驚きのあまり化粧が落ちかけている。普段から厚化粧だよね、この人。ナチュラルメイクの方が私は似合うと思うけど。
向かい側の席にいる両親に向かって私は言葉を返した。
「えぇ。そうでございます。」
「なぜそうなるのです!」
「なぜそうなるんだ!」
父、キリアンとナナの声が見事に重なる。流石夫婦って本来であれば拍手をしてあげたいものの、今はそんなことができる状況ではない。
「昨日の仮面パーテイーで偶然にもお会いし、求婚をされました。さすがのクリスチャー国の皇太子陛下の婚約となれば私でさえ断ることはできません。」
「まったく。そもそもなぜあなたは婚約者がいるというのに仮面パーティーへ行っているのです?」
ナナの正論に思わず怯みそうになるも、構わず言い返す。
「社会勉強です。未来の王妃たるもの、そういうパーティーにも目を通しておきたかったので。」
「そこでアルベイン陛下に目をつけられたのか…。」
ナナとキリアンは頭を抱え、更にはため息までついていた。
「あの。そろそろ、クリスチャー国へ向かいたいのですが。」
「駄目だ。」
父の言葉に私は尋ねた。
「なぜですか?」
「お前はパトリック殿下の婚約者だ。求婚はお断りしろ。」
「しかし!」
「ミア!言うことを聞きなさい!」
「あのアルベイン皇帝陛下の求婚を断れば我が国が危険にさらされるかもしれないのですよ!」
「我が国には巫女のセリーナ様がいらっしゃる。そこは大丈夫なはずだ。」
小説の中じゃあ、そのセリーナがいるせいでセイントル国は危険にさらされるんだけれどね。
「でしたら、そのセリーナ様とパトリック殿下が仲むずまじい恋人関係だと言ったらどうでしょうか?」
「どういう意味だ?」
父はムッとした表情で私を見た。思わず内心で「お?」と期待で踊らせてしまう。
「パトリック殿下とセリーナ様は恋人関係でいらっしゃり、私はいずれ婚約破棄される人材なのです。」
「それが何だというのです?」
母は真正面からそう言ってきた。思わず「は?」と声を漏らしてしまう。
「たとえパトリック殿下とセリーナ様が恋人関係だとしても、あなたはまだ婚約者の身である。婚約者の身である限り、どんなことがあろうとも、殿下の側で居続けなければならないという義務があります。現にまだ、あなたは婚約破棄をされていないのですから。」
「それは、私が死ぬこととなったとしてもなのですか!」
私はナナに言葉をぶつけた。ナナは笑みを浮かべて答える。
「そうですわ。」
狂ってる。実の娘にこんなことを言うなんて。…なんとなく、ミアが小説の中で悪役令嬢になってしまった理由が分かった気がする。
「それでも、私はクリスチャー国へ行きますので。」
私がこの部屋の扉へ向かおうとする手を父は抑えた。
「何をするのですか?」
「悪いが、お前を行かせるわけにはいかない。」
「離してください!」
私が必死に抵抗をするも、父が私の手首を抑える力は強まるばかり。
「…っ!」
どうして、こんなにもパトリック殿下との婚約を続行させたいのよ!娘が死ぬことになったとしても、パトリック殿下との婚約を用いてなにがしたいわけ?
まぁ、今はそんなことよりも、どうにかここを出ないと…。でもどうしたら…!?
ーーそのときだった。
「何をされておられるのですか?」
その声が聞こえた途端、手首を掴まれていた感覚がなくなった。目の前にいる父が執事に押さえつけられている。
「ロン…?」
「遅くなりまして申し訳ございません。ミアお嬢様。」
ロンは手を払いながら私に近づいてきた。そして、私の体を確認していく。
「どこも怪我はございませんね?」
「あ…はい!どこにもございません!」
すると、キリアンが声を荒げて発する。
「誰だ!お前は!」
「ミアお嬢様の執事でございますが?」
「こいつの執事だと…?」
「あなた大丈夫?」
母が父に駆け寄った。だいぶ心配をしているご様子である。
「あなた、執事のくせに生意気よ!」
「ミアお嬢様。この方々には構わずに馬車へ急ぎましょう。」
「行かせないわよ!傭兵!ミアとこの執事を捕えて!」
扉の外に居た傭兵たちがぞろぞろと部屋に入ってきた。まるで出入り口の扉を塞ぐように立っている。
「…っち。」
「ミアお嬢様。少しお体にお触れいたしますね。」
「え、それってどういう意味で?」
「失礼します。」
「え、あ、ちょっと!」
ロンはなんと私を横抱きに持ち上げたのだ。そして走って窓へと直行していく。そして、窓をバリンと割って、外へ飛び降りたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
めいいっぱい叫んでしまった。
飛び降りた先には、なんと馬車があった。ロンは何事もなかったかの様子で、着地をし、この状態のまま私を馬車へと運んでいく。
「ミアお嬢様。大丈夫でございますか?」
「あ、うん。だ、だい、じょう、ぶ?だよ…。」
多分、石のように固まっていたのだと思う。だって、飛び降りたのは屋敷の2階のしかも、結構の高さだったのだから。
やはり暗殺者の執事は超人であるのだと私はこの日、思い知った。
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