3 皇帝がうちへいらしています/暗殺者の執事がついてきました
「姫君。早朝に申し訳ございません。」
扉越しから侍女のエミルの声が聞こえる。私はベッドの上であくびをしながらも、エミルに言った。
「どうしたの?」
「実は、アルベイン陛下がいらしていて。」
へぇ、アルベイン陛下がねぇ。…え、ちょっと待って。今、なんて言った?アルベイン陛下?
「エミル!待ってて。すぐ支度をするわ。」
私はすぐさま支度を整え、アルベイン陛下がお待ちしているという客間に訪れた。
「アルベイン陛下。早朝から、わざわざ出迎えに来てくださり光栄ですわ。それにしてもよく、ここが分かりましたね。」
「皇帝の俺が調査をすれば、これしきのことはすぐ分かる。」
流石皇帝。でも、昨日は私、仮面を外してないのに。流石としかいいようがないわ。
「お前、この国の王太子が婚約者だそうだな。なぜ俺に求婚を?」
思わずビクッ震えてしまう。
「じ、実は最近、パトリック殿下がとある女性と仲むずまじい関係でいらっしゃいまして…。そして、私を婚約破棄し、今までのことから処刑を目論んでおりまして…。」
合ってるけど、合ってないな。まぁ、いいか。
「つまり、貴様が俺に求婚をしてきたのは、その処刑を免れるために利用をしたいからということか?」
「そんな利用って言い方…!」
「図星だな。」
…う。なんだか、えぐられたような気分だわ。
「まぁ、いい。それよりも、支度をしろ。」
「…えっと、どこへ?」
「我が国へ向かう準備だ。」
あら、そう。アルベイン陛下の国にね…ん?
「ええええええええぇぇぇぇ!?」
多分その声は屋敷中に響いていたのではないか。
***
我が国、セイントル。そして隣国のアルベイン陛下のいるクリスチャー。
クリスチャーは近辺の国でも近年長けているとの国。我が国は巫女であるセリーナの発見により、今後発展していくものの、いずれはクリスチャーと対立することとなり戦争に陥る。
まさか、その敵国へ行くことになるなんて…。頭が痛いわ。
「姫君!こちらも、お運びいたしますか?」
「姫君。ドレスは20着ほど持っていき、あとはあちらの国で買ったほうがよいかと。」
侍女たちは慌てて私の隣国行きへの準備を始める。その様子を見て、私は口に出してしまった。
「あのねぇ、みんな。引っ越しをするわけじゃ、ないんだよ?」
「何を言っているのですか?アルベイン陛下に求婚をされたのですよね!?」
「パトリック殿下との婚約がありましたが、アルベイン陛下に求婚されては断ることはできないじゃないですか!」
「ちょっと待って?なんで、アルベイン陛下が求婚したことになっているの…ごごっ!」
突如として、口を塞がれた。誰かと思い後ろを振り返ると、見たことのない美形の執事が立っている。
だ、誰?
「申し遅れました、ミアお嬢様。私はロン・エディと申します。本日から、アルベイン陛下の命でミア様の執事となりました。」
すると、侍女たちは騒ぎ始めた。
「陛下が姫君に執事をお付けに!?しかも、美形だなんて!」
「姫君は陛下に愛されておられるのですね!」
へぇ。あの陛下が私の執事をね。ロン・エディ…。ロン…。ん?ロン!?
私は思わずその執事から距離を置く。
小説の世界で、巫女のセリーナが誘拐される展開があった。その首謀者がアルベイン陛下。実行犯が執事であるロン・エディという人物。確か、彼は暗殺者であり、暗殺の心得を持っていたので、パトリック殿下は苦戦をしていた。
…つまりロン・エディは暗殺者ってことよね??そんな執事を陛下は私にくっつけてきたってこと?えぇ!?
すると、執事は私の元へ近づいてきた。思わず、足を引いてしまう。
な、なに?なんで近づいてきて…!?殺されるの!?
彼は私の耳元へ顔をずらし、言った。
「ミアお嬢様には婚約者がいらっしゃいます。だから、陛下ご自身が求婚なさったことになっているのです。」
彼はそう言うと、すぐに私から距離を置いてくれる。
し、死ぬかと思った。…というか陛下。そこまで考えてくださっていたのね。流石だわ。…でも待って。そうだとしたらこの執事をつけてきたのも何らかの意図があるはず…。
ふと浮かんだのは、暗殺者という言葉のみ。
もしや陛下、私を殺そうとしてる!?いやいやいや。じゃ、じゃあ怪しい動きを見せたら殺す!?
どうしよう。私は私の手で死亡フラグを増やしてしまったのかもしれない。
ひとまずは、あの執事に殺されないよう、怪しい行動は控えておこう。まずだいいちは、陛下の求婚から逃げ出すような真似は絶対にしないことね。
私はこのとき、心に誓った。




