35 招待状
「旅行に行かれるなら、海はどうですか?きっと、お嬢様なら水着も着こなせますし、陛下もお喜びになられますよ〜。」
あの陛下が…?想像すらつかないわよ、私。それに水着という丸腰なんかでいたら、ロンにすぐ殺されちゃうじゃない!
私はポケットに入っている短剣を触っていた。これは、あの王宮から盗んだ短剣…。
この短剣、ちっちゃいわりにはあのかったい鉄格子も削れるほどのいい剣で最高なのよねぇ。というか、今頃、短剣が盗まれたってセイントルで騒ぎになっていたらどうしよう…。なんだか申し訳なくなってきたわ。
「森と海がお気に召しませんでしたら、山はどうですか?登山とかどうです?頂上から見る景色は最高でございますよ。」
頂上…。山って突き落としても証拠隠滅できるわよね!?一番ロンに殺されそうな場所じゃない!?
「遠慮しておくわ。」
「森と海と山が駄目でしたら…どこへ旅行に行かれます?」
「だったら、国外へ行きたいわね〜。」
これで、国外に旅行と言えばエバもいい情報をくれるはず!国外逃亡の調査の第一歩よ!
「何のお話をされているのですか?」
背後から声がした。振り返るとそこにいたのはロン。思わず「ひぃ。」と心の中で叫んでしまう。
「あ、ロンさん。今、お嬢様が旅行に行きたいとトランクまで用意していましてね。それでどこへ行くかの話をしていたのですよ。」
おいエバ!なんで言っちゃうのよ!これじゃあ、怪しい動きをしているように聞こえちゃうじゃない!
「なるほど…。それで国外と?」
彼と目が合ってしまった。鋭い瞳。思わず後ずさってしまう。
やばいわ。これは怪しい行動すぎるわ。もしや、殺される!?いやいや。逃亡とは言わず旅行だし。流石に殺すってわけ…。
するとロンは私の元へ近づいてきた。思わず息を呑んでしまう。
…なんだ?まさか私を殺そうと!?
ロンは自身のむなポケットから何かを取り出そうとしている。…オワッタ。死か?と思い目を瞑ると、彼は私に一通の招待状を渡した。
「…へ?」
「ルビー宮のクレア様からです。なにやら、「リーゼを引きこもりにさせたご令嬢?ぜひともお会いしてみたいですわね。」と興味津々でこれを私に渡せと言われてきました。」
ルビー宮のクレアって、自国の夜会の際に王太子、それから他のお偉い貴族たちをボコボコにしたって噂になってる悪魔だとか稀代の悪女って呼ばれる子だよね?まぁ、悪女って呼ばれてるのは私もなんだけどさ。
…私、そんな危なそうな子に興味を持たれちゃったの?え?え?
「これって、私に拒否権なし…?」
私がそう言うと、エバはコクコクと首を縦に振った。…ただでさえ、こっちは死と隣り合わせで忙しいっていうのになによぉ!
まぁ、リーゼみたいなタイプの面倒くさい悪女じゃないことを祈るしかないな、これは。




