34 妖精の森のお話
「あのお嬢様…?先程から何を準備なさっているのです?」
「りょ、旅行の準備かしら?」
私は慌てて服、金、食堂から盗んだ食事をトランクの中に最低限の量を詰めていた。
「お嬢様が旅行に行くのであればそれほど小さなトランクではない方がよいのでは?」
「いざとなったら逃げれるためよ。」
「何からですか?」
「豹と猛犬からよ。」
アルベイン陛下とロンから逃げるためなのよぉ!
「お嬢様は森にでも旅行に行くのですか?」
「あ、うん。それもいいわね。」
生きれるなら、もはやどこでもいいわよ。こんな死と隣合せの場所なんかよりよっぽどましな所ならね!
「もしやお嬢様は…妖精の森へ行くつもりなのですか!?」
「え?妖精?」
思わず聞き返してしまった。妖精の森?なにそれ。
「お嬢様…もしかして知らないのでございますか!?」
「えぇ、知らないわ。」
「ふふん!でしたら、私が教えて差し上げますよ!」
エバは胸を張ってそう言った。主に対してこの態度はどうなのかと思ってしまう。まぁ、妖精の森っていうのも気になるし…。今はそこは突っ込まないでいよ。
エバの話を省略するとこうであった。
昔、妖精はこの世界の各地に住んでいた。人間と妖精が対等に話し合える世界。だけれど、いつしか人間は妖精を下に見るようになってしまった。対等の関係を気づけなくなってしまったのだ。嘘をついて、妖精を騙し色々なことに利用していた。妖精のせいで悪行が多発してしまう事態が発生した。
行き場をなくしてしまった妖精達は自分たちを守るためにある場所で人間達から隠れて生活を送っていくこと決めた。その場所は妖精が特別な結界を張っているため、人間は入ってこれない。
ーーこれが妖精の森が誕生した経緯だ。
「妖精の森はクリスチャーとサインバスの丁度境界に位置する大きな森なのですよ。」
「サインバスって、ルビー宮のクレア・テンブローズ嬢の自国じゃない。」
サインバス…。クリスチャーの隣国である国。全体的に評判のよい国である。だけれど、第2王子が少し捻くれて、大変だと噂は耳にしたことがある。
クレア・テンブローズはその第2王子の元婚約者だったらしいけど…どうしてアルベイン陛下との婚約になったのだろう。
「アルベイン陛下が彼女との婚約を受けたのは、その森についての情報を知りたかったからというのもあるそうですよ。」
「森の情報なんか知ってどうするの?」
私の質問にエバはニヤリと笑みを浮かべた。
「お嬢様はまだまだですね。」
「…っむ。で?何でなの?」
「その森だけは、クリスチャーの地でもサインバスの地でもないのです。」
私はその言葉にようやく理解をした。つまりは、どちらの土地でもない。そこを手にすれば国土が広がる。いわば、国土戦争ってわけね。
それに妖精を味方につけた国なんてまつりあげられれば、敵国どもも簡単には戦争を持ちかけてこないように対策の素材にだってできる。
クリスチャーとサインバスにとっては、どちらも譲れないってところなのね。
「でも、その妖精の森って人間は入れないんでしょう?なのにどうして『行くつもりなのですか?』って言ったの?」
「その話にはまだ続きがあるんですよ。」
「…続き?」
エバの続きの話を省略するとこんなものだった。
ある日、1人の妖精がまた人間と仲良くしたい、そんな思いで妖精は森から抜け出し人間界をさまよっていた。最初に会った人間たちからは、チヤホヤされたものの、次第に利用しようというものが集まりだし、サーカスの見世物などにされていた。
そんなつらい日々を送っていたときに助けてくれた少女がいた。少女は妖精が困っているのを一目見て察知し、手を差し伸べた。妖精は少女に感謝し、森への立ち入り許可を出した。
森の妖精たちは最初はそれに反対をしていたものの、だんだんとその少女に惹かれていき、その少女のみ森への立ち入り許可を許したのだった。その少女は「妖精に愛されし少女。」とサインバスでは伝説的存在として名を轟かせているらしい。
その少女は自国の王太子と結婚をし、危機的状況だった国を救った英雄と称えられていたそうだ。ところが、彼女の秀でた才能の分、寿命は普通の人間と比べはやかった。命日には自国の民どころか妖精達まで涙を流したという。
「すごく感動的なお話ですよねぇ…!」
「そうねぇ。」
なんかところどころどっかで聞いたことある気がするわね。なんだか、セイントルで伝えられている巫女の話とそっくりだわ。もしや、同一人物だったりして。
「その少女ともう1度会いたいと思う妖精たちは彼女が亡くなったその日から、森を人間でも入れるようにしたらしいですよ。彼女が生まれ変わったときにまた会えるようにとか。生まれ変わりなんか、あるわけないのに悲しいお話ですよね。」
「う、うん。そうね…。」
実際、私生まれ変わっちゃってるんだよね〜それが。原静香からミア・グリンフォードにさ。だからその妖精達の考え方は否定できないわ。
「へぇ、面白そう。一度でいいから行ってみたいわね。」
「ところがですよ?そんな興味で森に足を踏み入れた者たちは行方不明になっているんですよ!」
「森に迷ったとかじゃなくて?」
「そうなんですよ!なにやら、森から出てこられた人はいないらしいですからね!」
思わず「まじか。」と呟いてしまった。そんな危険な森…旅行なんかで絶対行かないわよ、私。
「まぁ、そこは今立入禁止になっていますからね。アルベイン陛下にお嬢様が頼めば、もしかしたら許可が出るかもしれないですけど。」
「あはははは。」
だからその陛下が今一番危ないんだって。




