27 死は恐れてはいけない
えー殺人的描写ありとなっています。ご注意を。
「…っ!」
私の指には血が垂れていた。糸で指が切れていた。イメージとしては紙で指を切ったときだろうか?それがこの指の中で糸の分起こったような。
私はすぐさまエミルから離れ、反対の手でその指をおさえた。
ものすごい痛いというわけじゃない。だけど、痛くないわけではなかった。
ミアがエミルの妹を殺した?一体どういうこと?いや、でもミアは本当にエミルの妹を殺そうとしたのかもしれない。でなきゃ、人間がこんなに殺意に満ち溢れるわけがない。
「なんで、私にこんな真似をするの?」
「あなたへの復讐です。」
「妹が殺した恨みで私を殺したいという理由であるならば、あなた自身には関係のないことよ。」
「よくもまぁ、そんなことが言えますね。復讐をするのは妹のためではありません。自分のためです。」
「ただの逆恨みじゃない。」
「侍女であった私に嫌がらせを散々してきて、他の侍女の罪の責任を私に背負わせ、無法地帯への謹慎処分とし、謹慎期間があけても迎えには来ず…。挙句の果てには妹を死に追いやったことのどこが逆恨みなのですか?」
…確かにそれは、逆恨みとは言えないわね。ミア何してんのよ!
ふと、この部屋にある時計を見る。あと5分で12時。私が死ぬ予定の日まであと5分。
…嫌な予感がする。はやく、逃げないと。
「なんで糸?」
「ご存知ないわけないですよね?妹は刺繍が大好きでとくに糸を好んでいた。刺繍ができないあなたは自身より私の妹の方が刺繍ができていることに嫉妬し、憎しみを募らせていたのですから。」
小説の中のミアはそういう分野に置いては他の令嬢と比べ一切努力を怠ったから、不得意なはず。反対にエミルの妹は病弱でありながら没頭できるのは刺繍ぐらいだった。だからこそ、得意。この2人は正反対でありだからこそ、ミアは嫉妬したのだろうか。
だからって、それだけの理由でエミルの妹を殺したっていうの?悪女と呼ばれるのが分かったわ。
「妹は自身の好きなこの糸を使って自分への罰を与えたの。好きなものを使って嫌いだった死を選んだ。…あなたが妹に私のせいで無法地帯へ行って野垂れ死んだって言ったからよ!」
ようやく話が見えた気がする。そこまでのことをしてその件が表沙汰になっていないのは、直接ミアが殺してはいないから。直接殺していればなんとかして証拠を掴んでミアを裁くこともできただろうに…。
すると、エミルは落ち着きを取り戻して笑みを浮かべてこう言った。
「リーゼ様に罰を与えたのですから、あなたも罰を受けるべきです。」
「…!?」
私はエミルの目を見た。明らかに殺意に満ちあふれている。これはやばい、と思った。
急いで窓から飛び降りようとしたときにふと、足元が「カチッ!」と鳴った。すると、糸が突如として私に襲いかかる。
「…!?」
気づいたときにはもう遅い。全身が糸に絡まり、私は宙に浮いてしまっていた。完全に捕まってしまった。
…嘘!?
「いつの間にこんな罠を?というかどうやって…。」
「知りませんでしたか?私、こうみえて暗殺者だったんですよ。」
いや?え?は?ちょ?待って。あん、さつ、しゃ?じゃ、じゃあエミルはロンと同じ部類ってこと!?
じゃあ、ミアに10年以上も仕えていたのは、暗殺するためだったとか…?もしや、パトリック殿下の命で暗殺依頼をされているとしたら?
結託しているのにも納得がいく…。
「お嬢様があまりにも単純で安心致しました。」
「…10年間も私を殺すタイミングを見計らってたってこと?」
それは相当な忍耐力が必要なはず…。ずっと殺意を隠し通せていたことに驚きだ。
「長かったようで、短かったですね。計画通り…にはなりませんでしたが。」
おそらく私が陛下に求婚をしたことは想定外だったのだろう。
「結果的にあなたを殺せそうで安心致しました。」
「…私を殺せばクリスチャーを敵に回すことになるわよ。」
「セイントルには巫女がいらっしゃいます。殿下も優秀でありますし…。ひとまず、あなたを殺してから考えればいいことです。」
エミルはそう言って、私の背後へと近づいた。すると、背後から私の手前に糸を張る。
「あなたは自分の罪を命を持って…償うべきです。」
その言葉とともに彼女は背後から私の首を糸でしめ始めた。
「…が。う…。」
苦しい。息ができない。
必死にもがこうとするも動いたら糸で切れてしまう。相当な力と覚悟がない限り手は動かせやしなかった。
私…今度も死んじゃうのかなぁ。前世はトラックではねられたのに今度は侍女に殺されちゃうの?
いや、私、まだ死んでない。私は人生で1度死にかけたけれど生き残ったことがあったんだから。だから、諦めちゃ駄目。
そう、それはあの日。人が多い時間帯に電車のホームへ待機している日のことだった。
***
「うっわ。今日人多すぎ〜。」
「静香、遥香。お母さんからはぐれないようにね!」
「遥香手つなぐ?」
「うん…ってうわ!」
遥香は人混みに埋もれてしまっていた。母は「静香。遥香助けてくる。」と言って、私から離れた。
私はその間、スマホを見て電車が来るのを待っていた。
電車が見えてきたそのときだった。
トンッと誰かが私の背中を押した。
「…え?」
振り返るまもなく私は線路へと落ちた。ギィィィィィという電車が急ブレーキをかけた音。周囲のざわめきと母と妹の叫び。
私はこのとき、死を覚悟して目を瞑っていた。
***
別にこれは私の罪ではなく、ミアの罪でしょう?なんで私が背負わないといけないのよ!
それに死を怖がってどうすんの?死なないまでは生きている。生きたいという意思があるかぎり抗わないとよ!
私は勇気を振り絞って右手を思いっきり振り上げ、糸を切った。皮膚には血が滲んでいたがその痛みなどを感じるよりも先にポケットに入っていた短剣を取り出し、糸を切り、エミルに向けた。エミルはすぐさまそれに察知し、姿勢を整えるために私から少し離れる。
「言ったはずです。私は暗殺者だと。素人のあなたが短剣を持っていようがいないが、私はあなたを簡単に殺害できますよ?」
「…だったら、これはどうかしら?」
私はエミルに短剣を向けながら窓に向かって走った。そして短剣をポケットに戻して窓辺に立つ。
「あんたなんかに殺されるぐらいなら…自分から死んでやる。」
「…!?」
エミルは驚いたような表情を浮かべた。私はその様子に笑みを浮かべながらも、いそいで紐を使いながら下へと降りる。
おそらく、エミルはこの紐を切ろうとする。だから、できるところまで下に行って降りれれば…。
そのときだった。パァンという銃声の音。それとともに私が掴んでいた紐は切れてしまう。
「…へ?」
落ちる。死ぬの、これ?
そう覚悟した瞬間、ゴーンゴーンという鐘がこの場に鳴り響いた。12時になったのだろう。私が死ぬ予定の日付となった。
「…ん。」
目を開けると私は大きな腕の中にいた。逞しいからであり、不思議と衝撃はなかった。
私はその人物を見つめ名を呼んだ。




