17 彼女に肩入れをする理由
私はアルベイン陛下に連れられ、会場の人気の少ないバルコニーへと訪れた。夜空は一層と綺麗であり、本来であればそちらを見て感動をしていたかったのだが、今の状況からしてそのようなことは不可能である。
…どんな罰を食らってしまうんだ、私は。せめて、死なない程度で…というか、甘めの罰でお願い…!
すると、前に歩いていた陛下の足が止まった。私の方へ振り返る。彼が持っている金色の瞳はまるで獣のように見えてしまった。思わず、息を呑んでしまう。
…怖い。こんなに怖いと思う人は生まれてはじめてかもしれない。
アルベイン陛下は本当に何を考えているか予想すらつけない。考えが一切として読めないのだ。だからこそ、私は恐れている。
昔から、何を考えているのか分からない人は私は怖い。何がその人を喜ばせ、何がその人にとって地雷で傷つけてしまうものなのかが分からないから。
「なぜ、あの侍女に肩入れをする?」
陛下から聞かれた質問は思ってもみなかったことだった。私は素直に答える。
「私の侍女ですから、当然です。」
「ただの使用人だろう?お前があそこまでする必要はなかったはずだ。」
「私もあの方に1度、ワインをかけられたので少々ムカついていたのです。そのやり返しついでに。」
「ならば、あの多数決とやらはどう説明する?あれも、ついでにというのか?」
「…う。それは…。」
私はため息をつきながらも、バルコニーにもたれかかった。そして、目を細めながらも口を開く。
「私にも、妹がいるです。だから、姉である彼女と私を重ねてしまって…。」
もし私がエバだったら?もし遥香がその病気の妹だったら?その状況で主であるリーゼに脅されていたら?
そう考えるだけでゾッとしてしまう。もしも、遥香が自分の命で助かるんだったら、私は潔くその命を絶つことをエバのように選んだと思う。
私を襲ったあのときのエバを思い出すたびに私と重ねてしまう…。だからこそ、私は彼女に肩入れをしていたのだろう。
「彼女は妹を助けるために自身の死を潔く受け入れようとしていましたから。」
「妹を助けるために自身の命を捧げる姉がいるのか。」
「何を言っているのです?」
私は陛下の言葉にそう返した。陛下をまっすぐと見据えて言い放つ。
「第一子の者は、下の子のためなら命だって懸けられる…。それは、当然のことなのでは?」
私のその一言に陛下の金色の瞳が微かに揺らいだのが分かった。なににそこまで驚いているのかは私にはわからない。だけれど、私の言葉が陛下に響いたことだけは分かった。
「それに、エバは私の大切な侍女です。大切な人が傷つけられたのなら、傷つけた人に何らかのお返しをするのが礼儀というものです!」
その言葉とともに風がなびいてきた。私の言葉に陛下は固まっていた。沈黙がしばらくこの場に続く。すると、陛下は私に手を伸ばしてきた。触れようとした瞬間に彼に声がかかる。
「陛下。シャンパンがかかったままでは、そろそろ風邪を引いてしまいます。最低でも一度、着替えになられた方がよろしいかと。」
その声の主はロンであった。私達のすぐ横から無表情で淡々とそう言っていた。
…気配がしなかった。流石暗殺者…。ん?というか…。
私は陛下を見る。すると、陛下がシャンパンを被ったまま私と話していたことを思い出した。不思議と笑みが溢れ出してくる。
「…おい。」
「へ、陛下…。ぷ、はやく、着替えた方がよろし…んふ、かと…。」
必死に笑いをこらえながらもそう言った。なにやら陛下はそんな私を見て怪訝そうな表情を浮かべる。
「そうだな。…お前への罰はお預けとしよう。…ついて来い、ロン。」
「御意。」
私は陛下が去っていくのをにこやかに手を振りながら見つめていた。そして、陛下がいなくなったところで、思わずガッツポーズをしてしまう。
よ〜し!ひとまず、逃げ切った!お預けっていうのが怖いけど…その頃にはきっと怒りも忘れているはず!
私がひとまず一安心し、伸びをしていると、背後から足音が聞こえてきた。
「やぁ、ミア。」
その声に思わず体をビクッと震わせてしまう。
…なに、これ?
聞いたことのない声だ。だけれど、体が勝手に恐れていた。振り返るとそこにいたのは、金髪にサファイヤ色の瞳を持った端正な顔立ちの美形。
この口調。この容姿。それに私をミアと呼び捨てに出来る人物はごくわずかな人間のみ。…まさか。
「パトリック殿下…?」
どうして彼がここにいるの…?




