15 多数決をしてもらいましょう
「…。それは一体、どのような意味なのでしょうか?」
「言葉通りでございますわ。エメラルド宮にエバよりもっと優秀な侍女はいます。その侍女の方がエバよりもっとリーゼ様にお似合いだと思いますよ。」
って言っといて、本当にエバより優秀な人が来るわけ?それとも、エバが自分の命令に背いたから、また新しい人材を送って私に嫌がらせをしようとしているだけじゃないの?
まぁ、どちらにせよ…。
「ご気遣いありがとうございます。ですが、私はエバという人材その者が気に入ってしまいまして…。手放したくはないのでございます。」
エバがそちら側に行ったら、あなたが何をするか分からない。そんな状態で渡せるわけないじゃない。
「あら。実は私もエバを気に入っていて。返していただけないでしょうか?」
「何をおっしゃられているのです?彼女はもう、エメラルド宮の者ですよ。返すという言葉は…少々間違っているのではないでしょうか。」
「何を言っておられるのです?私はあなたの元へ一時的にエバを置いていたのです。時効という言葉を知っていないのでしたら、話はお変わり致しますが…。」
そんなの言われた覚えないわよ、私。
「まぁ。エバを脅してまで私に嫌がらせをして来いと命じていたのに、随分とエバを贔屓にしているようですね。あぁ、確かもし命令に背けば妹君がどうなるのやらと脅したそうですが…。」
ザワザワザワと本日何度みたかというぐらいの周囲のざわめき。私はその様子に笑みを浮かべた。そして、リーゼにある提案をする。
「では、先程から私達の会話を聞いてくださっていた殿方の方に多数決をしてもらい、どちらがエバを手に入れるかを決めればよいのではありませんか?」
「…は?」
リーゼは、心の底からそう声を出していた。私は殿方に向かって深くお辞儀をする。
「殿方のみなさん、今の我々の話を聞いてくださったことが多いことかと存じ上げます。こんな形で巻き込んでしまって申し訳ございません。ですが、みなさんには優秀な侍女であるエバをどちらの宮へ渡すかという重要な事に関わっていただきたいのです。ぜひともご参加お願いします。」
「俺の妃であるお前が頭を下げる必要はない。皇帝命令だ。多数決に参加をしろ。」
陛下の威厳により、会場中は静まり返った。まるでさっきのざわつきが嘘みたいなくらいに。
…流石陛下。まぁ、協力してもらうのはここではない予定ではあったけど…。丁度いいか。
「リーゼ様もそれでよろしいですね?」
「…分かったわ。」
すると、彼女は呼吸を整えてニヤリと笑みを浮かべながら殿方のみなさんの方を向く。
…一体、何をするつもりなの?
「みなさま。彼女は元々はエメラルド宮の者です。ムーンストーン宮にミア様が入るものの、使用人がいないということなので、一時的に彼女をお貸ししていました。ですので、ぜひ私にご投票を。くれぐれも、私があの石油王の娘ということを忘れずに。」
最後の一言で彼らに圧がかかっただろうなぁ。なにしろ、石油はこの国じゃあ貴重なのだもの。もし彼女に逆らえばその石油が手に届かなくなってしまうかもしれない。これは、ほぼ脅しと言っても過言ではないか。
そっちがその気なら、私にだって考えがあるもの。
一歩踏み出し、殿方の方々に向かい礼儀正しく口を開いた。
「リーゼ様から一時的にお貸しするとは一言も聞いておりません。それに、彼女は少々リーゼ様に脅されていたらしいので…ならば、私のところに置いておくのがいいのではないでしょうか。」
「ちょっと!虚言を言わな」
「虚言を言っているのはどちらですか?胸に手を置いて考えてくださいまし。それに今は私が殿方にお話をしている最中でございます。割り込みはいかがなことかと…。」
いいから、リーゼ。あなたは黙っていなさい。
「私はセイトル国から来たものでございます。みなさまも一度耳にしたことがありませんか?セイントルで伝わる巫女の話を。」
その言葉に周囲は驚きの声を上げていた。アルベイン陛下もだ。
「巫女は100年に一度現れるという美貌と素晴らしい歌声を持った存在であり、現れた国は他国と比べ大いに経済的発展を促される…。そのような伝説を聞いたことがないでしょうか?」
アルベイン陛下以外はその情報が確かなのかは、分かっていないはず。
「私はこの国があまり関わったことのない、セイントルの出身のもです。情報は石油よりももっと大切なのでは?」
リーゼに勝つには、石油よりももっと大きなカードが必要だ。石油よりも大切なもの…すなうち、情報だ。
「それと、私はエバ自身の意思が大切だと思うのです。…エバ。あなたはどっちの主がいいの?」
エバは深呼吸をしてから口を開いた。
「私は…ミアお嬢様の侍女でいたいです。」
「あなたねぇ!」
「ミアお嬢様はリーゼ様と違って、私を丁重に扱ってくださりました。見てください。今日着ているドレスがなによりその証拠です。侍女にこんな素材のよいドレスを買ってくれる主など他にいないでしょう?」
やっぱり、ドレスは着せて正解だった。
「エバ!今までの恩を忘れたの?」
「しっかりと覚えていますよ。ミアお嬢様への嫌がらせを命じてきたことも。今ここでその内容を言うこともできますが?」
「…っ!」
かなり突いたわ。
私は陛下に視線を送った。陛下はその視線を受け取り次第、口を開く。
「リーゼに支持する者は手を挙げろ。」
手を挙げたのは、ざっと数人。この会場にいる者たちの半分以下。
ということは…。
「では、ミアを指示する者は手を挙げろ。」
挙がったのは、半分以上。思わず笑みを零してしまう。
…勝った。
「…お、おかしいわ。こんなの…。あなたたち!私を舐めているの!?私は、あの石油王の娘なのよ!」
「舐めてなどいらっしゃいませんよ。ただ、殿方の皆様は、公平な判断をしてくださっただけです。そこに石油王の娘など関係のなかったことなのです。」
それに多数決に参加してくれたんだから、感謝しかないわ。ありがとう!
すると、リーゼは怒りを爆発させたのかというオーラを放ちだした。そして、シャンパングラスを持ったまま、私に近づく。
「あら?手が滑りましたわ。」
彼女はそう言って私にシャンパンをかけようとした。私はその行動にフッと笑みを浮かべ、すぐさま避ける。そのシャンパンは後ろにいた陛下の元へかかってしまったのだ。
「…!?」
リーゼはこの世の終わりかの表情を浮かべている。この会場にいた殿方の皆様も同じ反応だ。
ただ私とエバだけは違っていた。だってこれは、計画の内なんだもの。




