14 挑発は私の特技の一つです
陛下と私が会場に足を踏み入れたとともに会場が一気に静まり返った。みな私達に注目をしている。
「陛下。少しばかり私の余計な真似をするのにご協力をお願い致します。あとでどんな罰でも受けますので。」
「…?」
陛下は私の言葉に首を傾げた。まぁ、確かに。これだけじゃあ、言葉足らずで私でもわかんないもん。でも、今言えるのはここまでだから…。
私は呼吸を整え、この会場を見渡した。
…いた。リーゼ・ガルクラ。
彼女はシャンパングラスを片手にこちらを驚いた様子でみていた。陛下が私をエスコートしてこの会場へ訪れていること、それとも綺麗になったエバを見てだろうか?あるいわ、その両方だろう。
私はリーゼの元へ向かいお辞儀をした。私の後ろから歩いてきていたエバも同じようにお辞儀をした。
「お久しぶりですね、ガルクラ姫君。」
「えぇ。お元気そうでなによりですわ、グリンフォード姫君。」
最初はにこやかに挨拶を。これは、淑女たるものの礼儀ってエミルが言ってた。
『姫君。いいですか?姫君はアルベイン陛下の新しく妃となった身なのです。ガルクラ姫君に少しばかりお返しをしたいのは、山々でしょうが淑女としての自覚を忘れないようにですよ。』
って、行く前にこっぴどく言われたっけな〜。そんなに心配なら、エミルも着いてくればよかったのに。
エミルは私がエメラルド宮を留守にしている間に宮殿内をピカピカにしたいと、使用人ベテラン歴が疼いてしまったらしい。…いやまじで怖かった。ある意味。
「リーゼ様。素敵な侍女をくださり、ありがとうございます。ご配慮頂きとても光栄でございます。」
「す、素敵な侍女…?」
リーゼは私が何を言っているのか分からない様子だった。それもそうだろう。エバは私に対して結構な嫌がらせをしていて、凹んでいるとお思いなのだろう。
「そ、それはよかったですわ。」
リーゼは私にそう言って、エバをギロリと睨んだ。エバはその睨みに一瞬後ずさるも、拳をひそかに握りしめて彼女を睨み返した。リーゼはその様子に驚きの表情を見せている。
「侍女は、無礼な行動を起こさなかったのかしら?」
「流石。リーゼ様の侍女はとても優秀で不快なことなど一切ありませんでしたよ。」
「ふふ。そうかしら?それはよかったわ。…エバはムーンストーン宮でどうかしら?元気にやれてるの?」
リーゼは自然に微笑みながらリーゼに返す。
「はい。ミアお嬢様は使用人の方々にもお優しく聡明なお方で、エメラルド宮とは違った空気感ではありましたが、おかげさまで楽しく仕事ができています。」
この言葉はつまり、エメラルド宮では使用人には優しくなくて主であるリーゼは聡明ではないということ。…いい感じにディスっているわ!流石私の侍女!
「…そう。」
リーゼは拳をひそかに強く握りしめていた。相当お怒りなのだろう。挑発が効いている証拠と言っていいだろう。
「それにしてもエメラルド宮では、特殊なお仕置きをされているようですね。あぁ、確か鞭で叩いたり水に何時間も入れられたり、足の指を切ったりなどの」
「あはは。変な噂ですわね。まったく見に覚えがありませんが…。どこから聞いたのかしら。」
リーゼは私の言葉を遮ってそう言い張った。周囲はザワザワとし始める。
「あら?否定しなくても、よいのですよ。そう証言するあなたの優秀な侍女たちも多数でありますし…。なにせ、陛下の騎士の方々までそうおっしゃられていましたので…。でも、それが、リーゼ様のやり方であり優秀な使用人を作る心得でしょうから。」
「…っ!」
陛下の騎士という言葉でさすがにリーゼは反論ができなくなったのか、黙り込んでしまっていた。周囲はまたしてもざわつきをあらわにする。
「グリンフォード姫君はそれで何が言いたいのですか?」
「実は、そのお仕置きでエバの背中にはアザや腫れが酷くてですね…。きっと、そういうお仕置きをなさっているリーゼ様はそういうのにも対処が詳しいのかなと思い、お聞きしたかったのです。そのような処置も知らずに下手したら使用人の死を招くようなお仕置きをなさるわけでもないでしょうし。」
絶対、処置とか知らないと思うけどね。
私のこの発言にリーゼの顔から笑顔がなくなったのが分かった。爆発寸前なのだろう。
「リーゼ様は優秀でありながら、自分にも他人にも厳しいお方なのですね。確かに使用人が入れるお茶は常にいい味を出さねばいけませんし、主人がペンを落としたならば、汚さずに工夫して拾わねばなりませんもの。そのような簡単なことができなければお仕置きをする…流石リーゼ様でございますね。私では、そのような行いは到底できませんので…。羨ましい限りです。」
「あなた…私を馬鹿にしているわけ!?」
とうとう、リーゼは爆発したのか声を荒げてそう言った。その様子に思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。
「私がそのようなことをできる立場ではございませんよ。」
「…先程から私に喧嘩を売る威勢だけはいいのね。」
威勢だけじゃなくて、姿勢もいいわよ…な〜んちゃって。…流石にこれはキレられるから言うのはやめよう。
「あなた、私の悪評を流すまでして皇后の座にのぼりたいのかしら?」
「事実を言っているだけですが。それがなぜ、いきなり皇后の座の話になるのです?」
周囲の一部の方々が一瞬、笑いをこらえたような音がした。その理由は私にはわからない。だけれど、目の前にいるリーゼはそちらの方を見て少しばかり睨んでいた。きっと、リーゼの気に障るようなことで笑ったんだろう。
「あなたにはまったく話が通じませんね。」
「ご心配ありがとうございます。」
「あなたさっきからやっぱり私を舐めているの?」
うふふ。ムカついたでしょう?その調子よ。
私はすぐ後ろにいるエバを見る。エバは私に向かってこっそりとグッドというハンドサインを送った。
あとはリーゼが行動をあの起こしてくれれば…。
すると、リーゼは少し呼吸を整えてから口を開いた。
「…グリンフォード姫君。そんなにも私の侍女が気に入ってくださったのなら、エバよりもっと優秀な侍女がいいのではないのかしら?」




