11 自分の準備より侍女の準備を
時間ははやく進む。この言葉はこの世界にも共通のものなのだろう。
なんと、夜会当日になってしまったのだ。
「ミアお嬢様。お茶をお持ち致しました。」
そう言うと、エバは私の目の前にあるテーブルにティーカップを置いてくれた。私は笑顔ながらも、彼女に問いかける。
「…これは、普通のお茶?」
「はい。今回は何も入れておりません!」
私はその言葉を聞き、安堵のため息をついた。そして、ティーカップを口につける。
「ついこの間、ミアお嬢様の椅子を刺していたとは思えないですね。」
ロンが突如として、エバに向かってそう言った。思わず、お茶を吹き出しそうになってしまう。
「…忘れてください。」
エバは恥ずかしさと申し訳なさそうな感情が入り混じった声でそう言った。
***
「さて、エバ。あなたをとびきりかわいくするわよ〜!」
「なぜ主が侍女を聞かざるのにそんなにやる気なのですか!それと、まずは自身の準備をなさってください!」
私はそんなエバの言葉を無視して私の化粧台の前の椅子に座らせた。彼女は最初の方はブツブツとなにか言っていたが、何を言っても聞かない私にようやく懲りたのか、目を閉じて動かないでいてくれた。
「ミアお嬢様って悪女と噂されていたとお聞きしましたので、正直こんな性格だとは思いませんでした。」
…え?その噂、こっちの国にまで情報漏れしてたわけ?というか、アルベイン陛下はそんな悪女の求婚をよく受けたなぁ。
「リーゼは夜会ではいつもどんな感じなの?」
「いつも自分中心だと思っていらっしゃる方ですね。なにしろ、皇帝陛下が一番訪れている宮殿はエメラルド宮ですから。」
私はその言葉に思わず動かしていた手をとめた。
「…陛下って、リーゼみたいな子がタイプなの?」
「いえ。陛下はそういう意味でエメラルド宮へいらしてはいません。おそらくは、リーゼ様のお父様のラングレア様目当てなんでしょう。なにしろ、我が国で石油は貴重なものですから。」
あぁ。確か、リーゼの父は石油授業を成功させたんだっけ?
アルベイン陛下は何か意図があってこそ、行動をする人だものね。一瞬、リーゼのことが好きかと思っちゃったけど。
…ん?待てよ。もしかして、リーゼが私を嫌ってる理由って…!?
「私が陛下に求婚をしたから…。」
「?リーゼ様?何をおっしゃられているのです?求婚をなさったのは、アルベイン陛下の方ですよね?」
私はエバの発言に対し、少し焦った。
「あ、あぁ!いい間違えちゃった〜。そう!陛下が私に求婚したの!…でも、だからリーゼは私を嫌っているのかな…?」
危ない危ない。そういえば、エバは私が陛下に求婚をしたことを知らないんだった。
「おそらく…というか100%そう考えてよいかと。それにリーゼ様はアルベイン陛下をお慕えしていっらしゃるので。」
思わず目を開いてしまった。お慕え…?じゃあ、リーゼは恋愛感情的に私に嫉妬をしたってこと…?てか、エバの100%って。…まじで?
化粧が終わり、私はエバの髪をとかしはじめた。
「じゃあつまり、リーゼは私が来るまではこの愛人の序列1位だったってこと?」
「そうです。ですから、1年に1度行われるこの国の宴のダンスの際では、リーゼ様がアルベイン陛下のパートナーとして毎年出席されていらっしゃいます。」
「1年に1度の宴?それって、今日の夜会と何が違うの?」
「規模が違いますね。まぁ、それは近づいた頃にお話いたしますよ。あ、ちなみに愛人の皆様は宴は全員参加が必須でございます。」
私はエバの最後の付け足しに露骨そうな表情を浮かべた。全員参加って…ろくなことが起きそうじゃないじゃん!
「そういえば、リーゼ以外の愛人の方々と会ったことがないけれど、どんな方たちなの?」
編み込みをしながらも、そんな質問をした。彼女は一瞬、難しそうな表情をしていたがすぐに答えてくれた。
「どの方々も特徴的な方々ですね。」
エバから聞いた内容を要約すると、こんなかんじだ。
アクアマリン宮はコマリ・メモリーヌ。ちなみにコマリの姉は自国の聖女として名を知られているらしい。だが、当の本人は自国では「大悪女」と呼ばれているだとか。姉妹でよく比べられることも多かったそう。
シトリン宮のラピリス・マクミラン。可愛くてゆるふあな容姿と性格を持った女の子。誰にも分け隔てなく接してくれて使用人であるエバにも気遣ってくれたのだとか。だけど、2重人格という噂も流れているらしい。まぁ、大体そういう人ほど腹黒いっていうもん。自国ではまるで自分が「悲劇の主人公」アピールをしていたことから、一部の女子たちからは「悪役令嬢」と呼ばれているらしい。
そして、ルビー宮のクレア・テンブローズ。立ち振舞も学業も勉学も出来ることから表立っては完璧超人と評価されている模様。だけれど、噂では自国の夜会の際に王太子、それから他のお偉い貴族たちをボコボコにしたとされる令嬢。ごく一部で「悪魔」だとか、「稀代の悪女」だとか言われているらしい。
とにかくその話を聞いて、私はあることに気づいてしまった。
…私を含め、アルベイン陛下の愛人は全員「悪女」呼ばわりされている女。これってほんとに偶然なの?
「ですがご安心ください。その方々は今夜の夜会にはご出席しないとのことですので。」
「そうなんだ…。」
アルベイン陛下がこれらの共通点に目を落としているなんて考えられない。まさか陛下って…悪役令嬢好き?いやいやいや。
でも、こんなにも悪女と呼ばれる者たちが揃うことなんてあるの?…まぁ、この世界は小説の世界だし、あるわ。
「できたよ〜!」
私がそう言うと、エバは鏡をじっと見据えた。まるで自分ではないものがこの世にうつっていると言わんばかりの表情になっていた。
「すごい…!というか、ミア様。どこで化粧など学んだのです?令嬢なんて知る余地もないだろうに…。」
…前世では自分がするのが当たり前でした、とは言えないし…。
「…そういえば、私、ミア様のドレスを盗んだ挙句ビリビリに破いてしまいました…!?」
「ん〜?でも別に、この格好でいけばよくない?」
私は今の自身が着ているドレスを見つめた。質素な素材に質素なデザイン。これぞまさにシンプル・イズ・ベスト。まぁ、少し地味だけどこれぐらいでいいんじゃない?
「あぁ。ミアのドレスは注文したから、ここにあるけ」
「どうして私なんかのドレスを注文して、自身のドレスを注文しないのですか!」
エバは私の言葉を遮ってそう言った。いや、私は別にこれでいいんだけど。
「今からでも、ドレスを買いに行きましょう。」
「えぇー。もう、面倒くさくない?これでいいんだけど。それに時間も」
「使用人である私がミア様のドレスよりも豪華なのは問題です!」
その発言に思わず「確かに。」としか肯定できなくなってしまった。あぁ、でもこのままじゃ夜会開始になっちゃう。もういっそのこと、欠席しようかな。いやいや。初の夜会で欠席は品格が落ちるだろうし…。
そのときだった。コンコンコンと扉を叩く音がする。私が「どうぞ。」というと、ロンが部屋に入ってきた。
「ミアお嬢様。アルベイン陛下がお見えです。」
ロンがそう言うと、とある人物が私の部屋へと足を踏み入れてきた。




