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白いリボンがほどけるまで  作者: 芦名 雅


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13/16

第12章 誰も見ていなかった

※本作は架空の島・架空の戦争を舞台にしたオリジナル創作です。

特定の実在人物・部隊・出来事を直接描いたものではありません


七人は海の見える方へ下った。

民家があれば水があるかもしれない。

食べ物もあるかもしれない。

誰かがいるかもしれない。

焼けた家が一軒あった。

海から湿った風が吹き上げ、焼けた木と潮の匂いを一緒に運んできた。壁のない家の中には割れた茶碗が転がり、すすけた柱に子供の背丈ほどの線が残っていた。昨日まで誰かの家だったことが、かえって恐ろしかった。

人はいなかった。

井戸は瓦礫で埋まっていた。

床下から芋が二つ見つかった。

芋のそばには、布に包まれた小さな櫛が落ちていた。初江が拾い上げ、歯の欠けた部分を親指でなぞった。

「誰のだろう」

「置いとこう」

千鶴が言った。

持ち主が戻る可能性を、誰も否定できなかった。

初江は櫛を元の場所へ戻した。

数時間後、その初江自身の持ち物を取りに戻ることはできなくなる。

七人で分けた。

誰も味の感想を言わなかった。

食べ終わったあと、初江が立ち上がった。

「外、見てくる」

「一人で行かないで」

律子が言った。

「すぐそこ」

初江は家の角まで行った。

灯子からも背中が見えていた。

そのとき、遠くで一発だけ砲声がした。

初江が振り返った。

何か言った。

音は聞こえなかった。

次の瞬間、家の横で爆発した。

灯子は床へ倒れた。

耳鳴りの向こうで夏子が叫んでいた。

土煙が薄くなった。

初江は倒れていた。

灯子が近づく前に、千鶴が首を振った。

それで終わりだった。

灯子の頭は「初江が死んだ」という言葉を拒んだ。倒れている。動かない。それは見れば分かる。それでも「死んだ」という意味だけが入ってこない。次の砲声が鳴って身体が勝手に伏せたとき、初江を置いて自分が生きようとしていることに吐き気がした。

最後の言葉は聞こえなかった。

何を言ったのかも分からない。

初江の白いリボンはポケットに入ったままだった。

取り出す時間もなかった。

また砲声がした。

六人は走った。

初江を置いて。

夕方、森の中の浅い窪みに身を伏せた。

朝子はほとんど歩けなくなっていた。

呼吸が速かった。

水を少し飲ませた。

「朝子」

灯子が呼んだ。

朝子は目を開けた。

「眠い」

それだけ言った。

「寝ていいよ」

千鶴が言った。

夜、誰もよく眠れなかった。

朝方、灯子は朝子の肩へ毛布代わりの布を掛け直した。

身体が冷たかった。

「朝子」

返事はない。

揺らした。

返事はない。

いつ死んだのか分からなかった。

夜の間、灯子は何度か朝子のすぐ隣で目を開けていた。あのときはまだ息をしていたのか。布を掛け直したときにはもう死んでいたのか。思い返そうとするほど記憶は曖昧になった。人が死ぬ瞬間には何か決定的な変化が起きると思っていた。現実には、隣で眠るようにいなくなることさえあった。

夜中に息が止まったのか。

明け方だったのか。

誰も見ていなかった。

死ぬ瞬間を見守る人さえいなかった。

朝子は眠っているようにしか見えなかった。

千鶴が何度も名前を呼んだ。

起きなかった。

五人になった。

千鶴は朝子をその場へ置いていくことを嫌がった。

「せめて土をかけよう」

でも道具がなかった。手で掘れば時間がかかる。砲声は少しずつ近づいていた。

灯子も残りたかった。誰かが死ぬたび、置いていくことだけが上手くなっていく気がした。

結局、朝子の身体へ布を掛けただけで歩き出した。

十歩ほど進んだところで千鶴が戻りかけた。夏子が腕を掴んだ。

「戻っても起きないよ」

千鶴はその場で泣いた。

正しいことを言った夏子も泣いていた。

初江が何を言おうとしたのかも分からない。

朝子がいつ死んだのかも分からない。

灯子の記憶には、死んだ瞬間のない友達が増えていった。最後に見た顔と、次に見た冷たい身体。その間だけが、黒く抜け落ちていた。


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