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ep.9 白魔法では病気は治せません

 三日目の昼過ぎ、店の戸を叩く音がした。


 顔を出したのは、村はずれに住む年配の女だった。息を切らしている。


「薬屋さん、うちの人が熱出して……白魔法だっけ、それで治せないかい」


 シャーロットは店の戸を閉めると、すぐに道具袋を掴み、女の後についていった。


 案内された家の寝台には、初老の男が横になっていた。顔は赤く、額には汗が浮いている。呼吸は荒いが、意識ははっきりしていた。


 手を額に当て、脈を確かめる。魔力の流れにも軽く触れてみたが、これは怪我とは違う。


「風邪に近い症状ですね」


「治せるだろ、魔法で」


 女の声には期待がにじんでいた。


 シャーロットは首を横に振った。


「白魔法で傷を塞ぐことはできます。でも、病気の原因までは消せません」


「そんな……」


 女の表情が曇る。シャーロットは急いで続けた。


「治せないというだけで、何もできないわけじゃありません。熱を下げる薬はあります。あとは、しっかり休んでもらうことです」


 道具袋から熱冷ましの薬を取り出し、飲ませ方を説明する。それから、水をこまめに飲ませること、暖かくして寝かせておくことを伝えた。


「二、三日様子を見て、それでも熱が引かないようなら、教会か旅の医者を頼ってください。長引く病気は、私の手には余ります」


 女は薬の包みを受け取りながら、まだ半信半疑の顔をしていた。


「魔法で、パッと治るもんだと思ってた」


「そう思われがちなんですけど……できることと、できないことがあるんです」


 その日の夕方、シャーロットが店じまいをしていると、同じ女がもう一度顔を出した。


「熱、少し下がったよ。薬、効いてる」


「よかったです」


「魔法じゃなかったけど、まあ……ありがとうね」


 女は薬代を置いて、足早に帰っていった。


 シャーロットは受け取った代金を数え、木箱の中へしまった。

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