ep.8 傷には傷薬を
二日目の朝も、店先を通り過ぎる人影はいつも通りだった。
昼が近づいた頃、戸口に人が立った。振り返ると、鎌を片手に提げた中年の男が、もう片方の手を布で押さえて立っている。布には血が滲んでいた。
「あの……薬屋、ここでいいのか」
「はい。どうぞ、こちらへ」
シャーロットは急いで椅子を勧め、男の手を取った。布をほどくと、掌に浅い切り傷があった。傷自体は深くないが、土が入り込んで汚れている。
「畑の道具で切っちまって。血は止まったんだが」
「土が入ってますね。まず洗いましょう」
水を張った器を用意し、傷口を丁寧に洗い流していく。男は痛みに顔をしかめたが、じっと手を委ねていた。
汚れを落とし切ってから、傷薬を薄く塗る。それから清潔な布で傷を覆い、包帯をきつすぎない程度に巻いていく。
「治りかけに土がつくと、膿むことがあります。しばらくは汚さないように、包帯もこまめに替えてください」
「ああ……わかった」
男は巻かれた包帯を軽く握ったり開いたりして、動きを確かめている。
「白魔法とかいうのは、使わないのか」
「これくらいの傷なら、洗って薬を塗る方が確実です。土が残ったまま塞いでしまうと、後で厄介ですから」
男は少し意外そうな顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。
「いくらだ」
シャーロットは値段を伝えた。決して高い額ではない。男は懐から銅貨を取り出し、調合台の上にそっと置いた。
その音に、シャーロットは一瞬、手を止めた。
この店を開いてから初めて、自分の仕事の対価として受け取る金だった。
「ありがとうございました。傷、お大事に」
男は包帯を巻いた手を軽く上げて、店を出ていった。
台の上に残った銅貨を、シャーロットはしばらく見つめていた。それから、そっと手のひらに包み込んだ。




