ep.10 また来てもいいですか
手の傷を診てもらいに来た男は、包帯を替えるついでに、しばらく店先で世間話をしていくようになった。傷はもうほとんど塞がっていたが、律儀に様子を見せに来る。
「この村に薬屋が開くのは、三年ぶりか」
「ノーラさんが最後だったって聞きました」
「ああ、婆さんは腕が良かった。厳しい人だったけどな」
そんな話をしていると、戸口の外に人影が動いた。前に覗き込んで逃げていった子どもたちだった。
今日は逃げずに、戸の陰から様子をうかがっている。シャーロットが目を向けると、さっと隠れたが、しばらくしてまた顔だけ出す。
「入ってきていいのよ。何もとって食わないから」
そう声をかけると、二人はもじもじしながらも中に入ってきた。年の頃は、十歳になるかならないかくらいの男の子と女の子だった。
「これ、なに」
女の子が乾燥棚を指さす。
「薬草だよ。乾かして、薬にするの」
「くさい」
男の子が顔をしかめると、隣の男が笑った。
「薬草なんてそんなもんだ。慣れりゃ気にならん」
シャーロットは棚から一枚、香りの穏やかな葉を取って、二人に見せた。
「これは、そんなに匂わないよ。傷薬に使うの」
子どもたちは代わる代わる葉に鼻を近づけ、確かめている。
しばらく調合台の周りをうろうろしていたが、外で誰かが呼ぶ声がすると、二人は慌てて戸口へ向かった。
「またおいで」
シャーロットが声をかけると、女の子が振り返った。
「また来てもいいの?」
「もちろん」
「お金、ないよ」
「薬を買わなくても、来ていいよ」
女の子はぱっと表情を緩めて、男の子の手を引いて外へ駆け出していった。
包帯の男が、その背中を見送りながら言った。
「あの子ら、いつも暇そうにしてる。まあ、悪さするような子らじゃない」
「そうなんですね」
シャーロットは棚に戻した薬草の位置を、少しだけ子どもの目線に合わせて直した。




