ep.6 薬屋、開店します
古い調合台の埃を払ってから数日、シャーロットは店の隅々まで手を入れていた。
乾燥棚は骨組みがしっかりしていたので、緩んだ釘を打ち直すだけで使えるようになった。倉庫には割れた瓶や欠けた鉢が残っていたが、それらはまとめて外へ運び出した。よく洗えば使えそうな、傷のない器もいくつか見つかった。
問題は薬草だった。
村の周りを歩き回り、道端や川沿いに生えている薬草を確かめる。傷薬に使えるものや、熱冷ましに使える葉は、思ったより近くで手に入った。
手持ちの知識と照らし合わせながら、必要な分だけ摘んで持ち帰る。
すり鉢は、村の老人が家にしまっていた物を譲ってもらった。使い込まれた木の柄が手に馴染む。
値段は貯金からすると痛手だったが、これがなければ薬は作れない。
夜、灯りの下で薬草を刻みながら、シャーロットはふと看板のことを考えた。
店の前には、古い木の板が立てかけられたままになっている。文字はほとんど消えかけていたが、目を凝らすと「ノーラ薬房」と読めた。
「……この名前、もらってもいいですか」
翌朝、グレアムにそう聞くと、彼は少し驚いた顔をしてから、短く笑った。
「別に構わんよ。婆さんも喜ぶんじゃないか」
古い板は捨てずに、文字をなぞるように塗り直した。
新しく彫り足す余裕はなかったので、消えかけていた文字を濃くしただけだったが、それで十分だった。
店内の準備も進めた。
調合台の上に道具を並べ、乾燥棚に薬草を吊るす。棚には、摘んできた薬草を種類ごとに分けて置いた。
住居部分は最低限しか手を付けていない。
ベッド代わりの寝台と、小さな机だけ。そこまで整える余裕は、今のシャーロットにはなかった。
開店の日取りは、特別に決めたわけではない。
薬草の在庫がある程度揃い、道具が使える状態になった朝、シャーロットは自然とそう決めた。
戸を開け放ち、塗り直した看板を店先に立てる。
朝の光の中で、「ノーラ薬房」の文字が少しだけ濃く浮かんで見えた。
誰かが来るかどうかは、わからない。
それでも、扉は開けた。




