ep.55 いつもの一杯
村の修理が一段落したのは、それから半月ほど経った頃だった。
崩れた柵はすっかり組み直され、傷んでいた外壁も補修されていた。畑仕事も、少しずつ普段の調子に戻りつつある。
薬屋の前でも、いつもの光景が戻ってきていた。
「樽ポーション、まだある?」
戸口から顔を出したのは、以前も何度か訪れていた男だった。畑帰りらしく、額に汗をかいている。
「今日の分なら、まだありますよ」
木のカップに注いで渡すと、男は一息に半分ほど飲み干し、ふうと息をついた。
「やっぱり、これがないと物足りないな」
「そんなに変わらないと思いますけど」
「いや、違うんだよ。これが飲めるってことは、普通の日ってことだから」
男はそう言って、残りをゆっくり味わうように飲んだ。
軒先のベンチには、カリナとイリスが並んで座り、洗ったばかりのカップを拭いていた。
「これで最後?」
「うん、それで全部」
拭き終えたカップを棚に戻していると、以前この村を訪れた旅装の女がひょっこり顔を出した。
「久しぶり。無事だったのね」
「おかげさまで」
シャーロットが答えると、女は店の中を見回し、少し驚いた顔をした。
「もうすっかり元通りじゃない」
「まだ、直しきれてないところもありますけどね」
女は棚の濃縮ポーションへ目を留め、迷わず数本手に取った。
「相変わらず、これはいいわね。次の依頼にも持っていくわ」
代金を払い、女は軽く手を振って店を出ていった。
夕方、店じまいをしながら、シャーロットは並んだ空のカップを数えた。今日も、いつもと変わらない数だけ使われていた。
カリナが最後の一つを棚へしまい、伸びをする。
「明日も、いつも通り?」
「うん。いつも通り」
イリスが眠そうな目をこすりながら、自分の部屋へ歩いていった。




