ep.52 濃縮ポーションを飲み干して
道具袋の底から、小さな瓶を取り出す。
戦いが始まる前、救護所の棚から一本だけ入れておいたものだった。
普段の魔力ポーションより、わずかに色の濃い一本。緊急のために取っておいた、あの濃縮ポーションだ。
栓を抜き、迷わず一息に飲み干す。
強い刺激が喉を通り抜けた直後、身体の奥に、これまでとは違う勢いで魔力が満ちていくのが分かった。
震えていた指先に、少しずつ力が戻ってくる。
「……まだ、動ける」
シャーロットは前線へ向き直った。
森の奥では、シャーマンが取り巻きのゴブリンに守られながら、次の詠唱を始めようとしていた。厚い壁のような守りに、誰も近づけずにいる。
「あの杖持ち、囲まれてて近づけない!」
前線の男が叫ぶ。
シャーロットは守りを固めているゴブリンたちの動きを、素早く目で追った。
左側の一体だけ、ほかより反応が遅れている。強化の光も、そこだけわずかに薄い。
「左! 左側が手薄です!」
叫びながら、その方向にいた剣士へ防御魔法をかける。次の一撃を受けても崩れないように。
「今、行けます!」
剣士が地を蹴り、左側から守りの薄い場所へ切り込んだ。
ゴブリンの壁に、初めて隙間ができる。
「続け!」
その隙を逃さず、二人、三人と続いて踏み込んでいく。
シャーマンが慌てたように杖を振りかざしたが、詠唱を終える前に、切り込んだ剣士の一撃が届いた。
甲高い悲鳴とともに、シャーマンの身体が崩れ落ちる。
同時に、周囲のゴブリンをまとっていた光が一斉に消えた。
統率を失った群れの動きが、目に見えて乱れ始める。
「今だ、押し返せ!」
崩れた統率に、防衛線が一気に押し返していく。
シャーロットはその場で深く息を吐いた。
まだ終わってはいない。それでも、確かに流れが変わった。
視界の隅で、後方へ運ばれた負傷者たちが無事に息をしているのを確かめる。
シャーロットの肩から、少しだけ力が抜けた。




