ep.49 傷つく前に、魔力が尽きる前に
戦いが長引くにつれ、シャーロットの視線は忙しなく動き続けていた。
前列で剣を振るう男の動きが、わずかに硬くなっている。まだ本人は気づいていない。腕の振りが小さくなり、踏み込みも浅くなっていた。
「そこ、代わって! まだ動けるうちに下がって!」
「え、俺はまだ……」
「限界まで粘ったら、次に出られなくなります」
有無を言わせず合図を送ると、後方の一人が前へ出た。
押し出されるように下がった男は、不満げな顔をしながらも、実際に息が上がっていたことに気づいたのか、それ以上は言い返さなかった。
矢を放ち続けていた女の動きにも、シャーロットは目を留めた。狙いがさっきより甘くなっている。集中力が切れかけているのだろう。
「一度、水を飲んで。目を閉じて数えるだけでもいいから」
「今?」
「今しかないです。次の波が来る前に」
女は弓を下ろし、水を一口飲んだ。
次に放った矢は、先ほどよりもぶれずにゴブリンの肩へ突き刺さった。
杖を握る魔法使いの一人が、詠唱の合間に肩で息をしている。
シャーロットは駆け寄り、魔力ポーションを手渡した。
「今のうちに飲めますか?」
「大丈夫……ありがとう」
「無理して大きな魔法は使わないで。今は数を減らすことより、魔力を切らさないことが大事です」
そう伝え、シャーロットは次に動きが鈍りそうな者を探して視線を巡らせた。
傷ついてからでは遅い。魔力が尽きる前に休ませる。
動き回るうちに、シャーロット自身の呼吸も浅くなっていることに気づいた。指先が少し冷たい。
一瞬だけ目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
「まだ増えてくる!」
前線から声が上がった。
森の奥から、途切れることなく新手が現れていた。数だけではない。動きにも、これまでとは違う統率が感じられる。
遠くで、何かが咆哮に似た声を上げた。
その声に合わせるように、ゴブリンの動きが一斉に変わった。
シャーロットは顔を上げ、森の奥へ目を凝らした。




