ep.48 白魔法使いの戦場
森の方角から、最初の一体が姿を現したのは、日が完全に落ちる少し前だった。
「来たぞ!」
見張りの声に、村の入り口に集まっていた者たちが一斉に身構える。
一体、また一体と、木々の間からゴブリンの姿が増えていった。
シャーロットは救護所となった薬屋の前に立ち、防衛線の様子を見渡した。
矢を構える者、剣を抜く者。それぞれの位置と表情を、一人ずつ確かめていく。
戦いが始まると、状況はすぐに動いた。
前列で盾を構えていた男が、二体を相手に押され始める。呼吸が浅く、足の運びも鈍っていた。
「そこ、下がって! 代わりを!」
シャーロットの声に、後方に控えていた別の男が前へ出る。
入れ替わりで下がった男は、肩で息をしながら救護所の方へよろめいてきた。
「傷は浅いです。少し休んだら、また出られます」
軽い切り傷に手早く処置を施し、水を渡す。深手ではない者を長く留めておく余裕はなかった。
弓を構えていた女が、矢筒を叩きながら叫ぶ。
「矢が心許ない!」
「あと何本?」
「五本くらい!」
「無駄撃ちしないで。近づいたものを優先して」
指示を飛ばしながら、シャーロットは反対側で杖を握る魔法使いにも目を向けた。
詠唱の間が、さっきより長くなっている。魔力が減ってきている証拠だった。
「大きな魔法は、あと一回までにしてください。使う時は私が合図します」
「分かった!」
横合いから、槍を構えた男へゴブリンの一撃が迫る。
シャーロットは咄嗟に手をかざし、直撃の衝撃を和らげる防御魔法をかけた。
完全には防ぎきれず、男はよろめいたが、致命傷は避けられた。
「大丈夫!」
短く声をかけ、次の場所へ視線を移す。
重傷者が出たのは、それから間もなくだった。
脇腹を深く裂かれた男が、仲間に支えられて運ばれてくる。
「こっちへ!」
シャーロットは即座に傷口を確かめた。
出血は多いが、傷は内臓まで届いていない。止血し、回復魔法で状態を安定させていく。
治療を続けながらも、シャーロットは何度も前線へ目を戻した。
右手が薄い。盾役の呼吸も荒くなっている。弓兵の矢も残り少ない。
「右手が手薄です! 二人、回って!」
叫んだ声に、数人が動いた。
その向こうでは、森の奥からさらにいくつもの影が姿を現していた。




