ep.45 森から逃げてきた冒険者
その日の午後、店の外で悲鳴に近い声が上がった。
戸を開けると、旅装の男が二人、互いを支えながら駆け込んでくるところだった。一人は右腕から血を流し、もう一人は足を引きずっている。
「頼む、手当てを!」
シャーロットはすぐに二人を店の中へ入れ、傷を確かめた。
腕の傷は深い。まず白魔法で出血を抑え、傷口を洗った。
「何があったんですか?」
「森の中で、ゴブリンの群れに……いきなり、四方から囲まれて」
出血の止まった腕へ包帯を巻きながら、シャーロットは相手の言葉に耳を傾けた。
「数が、尋常じゃなかった。仲間が一人、逃げ遅れて……」
言葉が途切れる。
シャーロットは、無理に続きを促さなかった。
足を引きずっていた方の男が、震える声で続けた。
「杖を持った奴がいた。他のゴブリンに、まるで指示してるみたいに動いてて」
その言葉に、シャーロットの手が一瞬止まった。
ラゴスが見たという群れと、同じものだ。
「今、群れがどこにいるか分かりますか?」
「森の中ほどだ。だが……向かってきてるかもしれない。俺たちを追ってきてる気配があった」
シャーロットは二人の手当てを終えると、道具袋を持ったまま立ち上がった。
「二人とも、ここで休んでいてください。すぐ戻ります」
「どこへ?」
「村長のところへ」
店の奥から出てきたカリナへ、二人の様子を見ていてほしいと頼む。
戸口を出ながら、シャーロットは深く息を吸った。
手当てをしている間は気にならなかったが、指先にわずかな震えが残っている。
冒険者だった頃に覚えた緊張感が、久しぶりに全身へ戻ってきていた。
グレアムの家へ駆け込むと、彼はすでに険しい顔で村人と話し込んでいた。
「グレアムさん、森から逃げてきた冒険者がいます。群れが、こっちへ向かってるかもしれません」
グレアムが振り返る。
「本当か」
「怪我人もいます。話を聞く限り、ラゴスさんが見たのと同じ群れだと思います」
グレアムは短く頷き、周りの村人へ視線を巡らせた。
「悠長にしてる時間はなさそうだな」




