ep.44 森の奥で群れが一つになる
村外れで罠を仕掛けている猟師のラゴスは、朝から様子がおかしいことに気づいていた。
いつもなら罠にかかっている小動物が、今日は一匹もいない。獣道の踏み跡も、いつもと違う方向へ乱れている。
森の奥まで足を延ばすと、木々の間に、見慣れないほど多くのゴブリンの足跡が交差していた。一つの群れにしては、数が多すぎる。
息を潜めて茂みの陰から様子をうかがうと、開けた場所に、思っていたより多くのゴブリンが集まっているのが見えた。
統率が取れているのか、無駄に騒ぐ個体がいない。
弓を背負った個体、粗末な盾を構えた個体。中には、これまで見たこともない、杖のような物を持った一体が、ほかのゴブリンへ何か指示するような仕草をしていた。
その一体が杖を掲げると、周囲のゴブリンの動きが一斉に揃った。
ラゴスは息を止めた。背筋を冷たいものが伝う。
これまで何度も見てきたゴブリンの群れとは、明らかに違う。
音を立てないよう、じりじりと後ずさる。踏んだ枝が小さく鳴っただけで、心臓が跳ねた。
幸い、気づかれた様子はない。
森を出るなり、ラゴスは村へ向かって走った。
「グレアムさん!」
畑にいたグレアムが、その形相に驚いて振り返る。
「森の奥に、でかい群れがいる。前に見たのと、様子が違う」
「様子が違うって、どういう」
「まとまってるんだ。指示を出してるみたいな奴もいた」
グレアムの顔から血の気が引いた。
「……確かか」
「見間違いじゃない」
しばらく黙り込んでいたグレアムは、やがて低く呟いた。
「ギルドに知らせを出す。村にいる冒険者にも声をかけないと」
グレアムは畑仕事の道具をその場へ置き、村の中央へ向かって走り出した。




