ep.42 二人の部屋を増やします
夜、寝る支度をしていると、狭い部屋の中から小さな言い合いが聞こえてきた。
「そこ、わたしの棚なんだけど」
「半分こって言ったじゃん」
「言ってない」
たいした喧嘩ではない。
それでも、二人分の荷物が増れるにつれ、同じ部屋では手狭になってきているのは確かだった。
翌朝、シャーロットは店の帳簿を開き、貯まった売上を数え直した。濃縮ポーションの注文と日々の薬代で、以前よりは余裕ができている。
「増築、できるかな」
裏手の空いた土地を眺め、頭の中で間取りを描いてみる。
まずグレアムへ相談すると、建物の裏側なら問題ないと許可をもらえた。
それからダグの作業小屋とトマスの食事処を回り、相談を持ちかけた。
「小さな部屋を二つ増やすくらいなら、手伝えるぞ」
「屋根の材料は、こっちで融通できるかもしれん」
数日のうちに、思ったより多くの村人が手を貸してくれることになった。
工事は、店を開けながら少しずつ進めた。
木材を組み、壁を立て、屋根を継ぎ足していく。カリナとイリスも、邪魔にならない範囲で釘や道具を運んだ。
「これ、わたしの部屋になるの?」
「そう。イリスの部屋」
「やった!」
「私の部屋も、ちゃんと別なんだよね」
カリナが確かめるように聞くと、ダグが壁を叩きながら答えた。
「ちゃんと仕切ってるから安心しろ」
十日ほどで、二つの部屋が出来上がった。
狭いながらも、それぞれに窓があり、簡素な寝台と棚が収まっている。
引っ越しの日、イリスは自分の荷物を新しい部屋へ運び込み、棚に人形を並べて満足そうに眺めていた。
カリナは自分の部屋で、寝台の位置を何度も直しては、また元に戻していた。
「どっちがいいか、分かんなくなってきた」
「好きにしていいよ。何度でも」
夜、それぞれの部屋の灯りを消す前に、カリナが隣の部屋を覗きに来た。
「イリス、ちゃんと寝る?」
「寝るー」
扉一枚を隔てた部屋から、くすくす笑う声が聞こえた。
シャーロットは廊下で、しばらくその声を聞いていた。




