ep.37 村で初めての食事処
納屋だった建物は、数日のうちに様変わりしていった。
トマスが壁の隙間を塞ぎ、屋根を直す。リゼットは中を掃除し、古い竈を磨き上げる。村の男衆も何人か手伝いに来ていて、木材を運んだり、扉を直したりしていた。
シャーロットも、店を開ける前や閉めたあとに様子を見に行った。
「何か手伝えることあります?」
「ちょうどいいところに。この棚、位置を決めてもらえる?」
言われるまま、シャーロットも一緒に棚を運んだ。
開店の日、竈から立ち上る煙と匂いが、村の中まで漂っていた。
初日から大勢が押し寄せたわけではない。それでも、畑仕事帰りの村人が数人、物珍しそうに戸を開けた。
昼過ぎ、街道を通りかかった旅装の男が、匂いに誘われるように足を止めた。
「ここ、飯食えるのか?」
「はい、どうぞ!」
リゼットが元気よく迎え入れる。
男は木の椅子に腰を下ろし、運ばれてきた汁物と黒パンを見て、少し驚いた顔をした。
「こんな村で、まともな飯が食えるとはな」
「薬屋もあるし、ちょっと前まではこんなんじゃなかったんですけどね」
トマスが厨房から答える。
男は汁を一口すすり、満足そうに頷いた。
「悪くない。腹が減ってたから、余計にうまい」
その様子を、シャーロットは戸口からしばらく眺めていた。
トマスが気づいて手を上げる。
「シャーロットさんも、食べていってください。お礼にはならないけど」
「いいんですか?」
「もちろん」
運ばれてきた汁物を口にすると、素朴だが温かい味がした。
村へ来てから、誰かに作ってもらった温かい料理を食べるのは初めてだった。
店の外では、また新しい足音が近づいてきていた。




