ep.36 帰ってきた若夫婦
その日、店先を掃いていたシャーロットは、見覚えのない荷馬車が村の入り口に止まるのを目にした。
降りてきたのは、若い夫婦だった。荷台には家財道具らしき箱がいくつも積まれている。
「グレアムさん、まだこの村にいるかしら」
女の方が、通りかかった村人へ尋ねている声が聞こえた。
シャーロットが箒を持ったまま様子をうかがっていると、グレアムが畑仕事の途中で駆けつけてきた。
「トマス、リゼット……! 戻ってきたのか」
「ご無沙汰してます」
夫のトマスが頭を下げる。三人のやり取りは、少し離れたシャーロットのところまで聞こえてきた。
「村を出て、町で何年か働いてたんですけど。噂を聞いて」
「噂?」
「この村に、冒険者や旅の人が立ち寄るようになったって。薬屋ができて、休んでいく人も増えたって聞きました」
リゼットがそう言って、ちらりとシャーロットの店へ目を向けた。
「あの、もしかして」
「シャーロットです。最近、薬屋を始めて」
「話には聞いてました。私たち、前は畑と家畜だけでやってたんですけど、それだけじゃ食べていけなくて、一度村を出たんです」
トマスが続ける。
「でも、旅の人が増えてるなら、飯を出す店くらい、成り立つんじゃないかって」
グレアムは腕を組み、しばらく考えてから頷いた。
「使ってない小屋が一つある。前は納屋だったが、手を入れれば店くらいにはなるだろう」
「本当ですか」
リゼットの声が弾む。
「ここら、宿どころか飯屋もないもんな。あんたらがやってくれるなら、村としても助かる」
グレアムに案内され、二人は小屋の方へ歩いていった。
シャーロットはその後ろ姿を見送りながら、箒を持つ手を止めていた。
薬屋を始めた時のことを、少しだけ思い出す。
あの頃と同じような顔で、二人は小屋の戸を開けていた。




