ep.34 三人を支えきれない
依頼は、街道近くに現れたコボルトの巣の掃討だった。数自体はさほど多くないと聞いていたが、巣の奥に踏み込むと、想定より広い空間が広がっていた。
「奥にもまだいるぞ!」
ダリオの声に、ガレスが盾を構え直す。
狭い通路での戦闘が続き、逃げ場のない分、一体ずつ確実に片付けるしかなかった。
「ガレス、そろそろ交代しないか?」
「まだやれる」
ガレスは肩で息をしながらも、盾を下ろそうとしなかった。
腕はもうずいぶん前から震えている。それでも、盾を構えて前へ出続けた。
奥の一体が繰り出した一撃を、ガレスは半歩遅れて受けた。盾ごと弾き飛ばされ、壁に肩から叩きつけられる。
「ガレス!」
エステルが駆け寄り、傷口へ手をかざす。血は止まったが、壁に打ちつけた肩の腫れはすぐには引かない。
「動けますか?」
「……動ける」
「無理はしないでください」
エステルがガレスの肩を治療している間に、ミレーヌは荒い息をつき、杖へ身体を預けていた。
「ミレーヌ、もう一発!」
ダリオの声に、ミレーヌは杖を掲げようとしたが、詠唱の途中で言葉が途切れた。
「……出ない」
「は?」
「魔力、もうほとんど残ってない」
ミレーヌの声には、焦りが滲んでいた。
魔力ポーションを取り出した手が震えている。飲んでも、目の前のコボルトが待ってくれるわけではない。
「エステル、ミレーヌに防御を!」
ダリオが叫ぶ。
だが、エステルはまだガレスの肩を治療していた。二人へ同時に魔法を使うことはできない。
「どっちを先に……!」
一瞬の判断の遅れが、そのまま隙になる。
「くそっ!」
ダリオが自ら前へ躍り出て、ミレーヌを庇うように斬り込んだ。無理な体勢からの一撃は浅く入っただけだったが、それでもコボルトの動きを止める。
その隙に、ガレスが痛む肩をかばいながら盾を構え直し、なんとか態勢を立て直した。
残るコボルトを片付け終えた頃には、四人とも肩で息をしていた。
「……危なかったな」
ダリオが呟く。返事はなかった。
ガレスは負傷した肩を押さえ、ミレーヌは空になった魔力ポーションの瓶を握ったまま座り込んでいた。
エステルはガレスの肩を診ながら、ミレーヌにも何度も声をかけていた。
「すみません……二人とも同時には、見きれなくて」
「お前のせいじゃない」
ダリオはそう言ったが、声には力がなかった。
洞窟を出ると、日はすでに傾いていた。
討伐した数を数え直しても、誰も報酬の話はしなかった。




