ep.3 清算金はありません
宿の一室に、ダリオとガレス、ミレーヌが顔を揃えていた。
テーブルの上には、共同資金の入った箱が置かれている。それを見て、シャーロットは少しだけ肩の力を抜いた。
「脱退の清算、お願いします」
これまでの活動を思えば、多少はもらえるはずだった。次の生活の足しになれば、それでよかった。
ダリオは箱に手をかけなかった。
「清算金なんて、出せない」
「え……」
「お前が今まで使った魔力ポーション代、把握してるか? 毎回どれだけ経費が飛んでたと思ってる」
「あれは依頼を成功させるために使った分です。パーティーの経費のはずじゃ……」
「経費にも限度ってものがあるだろう」
責めるというより、当然のことを告げる口調だった。
ガレスは目を合わせず、ミレーヌは箱の縁を指先でなぞっている。誰も口を挟まない。
「共同資金は、これまでの補充費の穴埋めに回す。それで清算は終わりだ」
何か言い返そうとして、シャーロットは口を閉じた。言葉を重ねたところで、箱の中身が変わるわけではない。
「……分かりました」
それだけ言って、自分の部屋へ向かった。
荷物は多くない。
着替え、治療道具の入った鞄、わずかな貯金の入った小袋。一つずつ確かめながら、鞄に詰めていく。
共有のマジックバッグは、扉の脇に置いたままにした。残っているポーションも、野営道具も、すべてパーティーの物だ。持っていく理由はない。
使い慣れた杖立てに、一瞬だけ手が止まった。
杖そのものは自分の物だから持っていく。立ては備品だから置いていく。
それだけのことに、やけに時間がかかった。
部屋を出ると、廊下にミレーヌが立っていた。
「……ごめん」
短い一言だった。それ以上は続かない。
「いいよ」
シャーロットもそれだけ返した。
階段を下り、宿の外へ出る。
荷物は鞄一つ分だった。
背中が、妙に軽かった。
空を見上げると、まだ日は高い。
これからどうするか、まだ何も決めていなかった。




