ep.19 薬を買わないお客さん
樽ポーションを始めてから、店に出入りする人の顔ぶれが変わった。
薬を求めて来る客は相変わらずいる。それとは別に、ただ立ち寄るだけの人が増えていた。
朝、まだ調合台を片付けている最中に、あの老婆がひょっこり顔を出した。
「お邪魔するよ」
「体調はどうですか」
「もうすっかりいい。今日は、あれをもらいに来ただけさ」
老婆は小樽を目で示す。
買い物でも治療でもない。シャーロットは手を止め、少し面食らいながらカップを取った。
「今、注ぎますね」
一杯渡すと、老婆は店の隅の椅子に腰を下ろし、ゆっくり飲み始めた。帰る気配はない。
作業を進めようとしたが、老婆は思い出したように世間話を始める。畑の様子、隣の家の子どもの話。
手を止めざるを得なくなって、シャーロットは苦笑した。
昼過ぎには、鎌で指を切った男がまた顔を出した。今度は怪我ではなく、収穫した野菜の余りを抱えている。
「これ、置き薬の分はもう払ったが、たまたま余ったから」
「そんな、いつもいただいてばかりで……」
「薬箱があるとないとじゃ、こっちの安心が違う。それくらい、受け取ってくれ」
差し出された籠を見て、シャーロットは何と返せばいいか迷い、結局礼を言って受け取った。
夕方、あの二人の子どもが友達を連れてやってきたが、今日はカップを求めるでもなく、店の前で石蹴りを始めた。
何度もはしゃぐ声が戸口から響いてくる。
薬箱の記録をつけながら、シャーロットはその声にちらりと目をやった。
一日を振り返ると、薬を買った客より、そうでない客の方が多かった気がする。
帳面には、たいした数字は並んでいない。
それでも、調合台の脇に置かれた野菜の籠を見て、シャーロットは小さく息を吐いた。
閉店の支度をしながら、店の脇に置いたままだった古い長椅子へ目を留める。以前、ノーラが使っていたものだ。
軒下に置けば、日陰で休む人がもう少し楽になるだろうか。
シャーロットは長椅子を持ち上げ、戸口の脇へ引きずっていった。




