ep.18 無料の樽ポーション
その日は朝から日差しが強く、戸を開けていても店の中には熱がこもっていた。
昼過ぎ、畑仕事帰りの男が、逃げ込むように店先の日陰へ腰を下ろした。顔は赤く、額から汗が止まらない。
「少し休んでいってください」
水を渡すと、男は半分ほど一気に飲み、大きく息を吐いた。
「助かる……今日は特にきつい」
「残りはゆっくり飲んでくださいね」
男を見送ったあと、シャーロットは調合台の隅に積まれた果実へ目をやった。形が悪く、町では売れないからと村人が持ってきた物だ。一人で食べ切るには少し多い。
腐らせるくらいなら、と刻んで水に入れ、疲れを軽くする薬草をほんの少しだけ加えてみる。畑仕事の後に残る身体の重さが、わずかに楽になる程度のものだ。
一口味を確かめる。果実の甘みが立ち、薬草の匂いはほとんど気にならない。
「これなら、飲めるかな」
水差し一つ分だけ作り、井戸水を張った桶に入れて冷ましておいた。
夕方、いつものように店を覗きに来た二人の子どもへ、シャーロットは試しにカップを差し出した。
「これ、飲んでみる?」
女の子が恐る恐る口をつける。次の瞬間、目を丸くした。
「あまーい!」
「そんなに甘くしたつもりはないんだけどな」
戸惑いながらも、シャーロットは自分でも一口飲み直してしまう。
隣の男の子が、女の子のカップを覗き込んだ。
「僕も飲みたい」
「はい。急いで飲まないでね」
二人は並んでカップを傾け、あっという間に飲み干した。女の子が空になったカップを差し出す。
「もう一杯!」
「今日は一人一杯。残りは、あとで来た人の分ね」
「明日もある?」
「果物が残っていたらね」
翌日、二人は友達を三人連れてやってきた。水差しは、全員に一杯ずつ注いだところで底を突いた。
「もうないの?」
「今日は終わり」
「明日はもっと作って」
「入れ物があればね」
子どもたちを見送ったあと、シャーロットはグレアムの家を訪ねた。事情を話すと、村の集まりで水を入れていた小樽を貸してくれた。
よく洗い、翌朝は前日より多めに仕込む。小樽は大きな桶に入れ、周りに湧き水を張って冷やしておいた。
昼前、昨日の子どもたちがそろって顔を出した。
「昨日の、ある?」
「今日は少し多めに作ったよ」
調合台の脇を指すと、女の子が小樽へ駆け寄り、その周りをぐるりと回った。
「樽に入ってる!」
「倒さないでね」
木のカップへ注ぎ、一人ずつ渡していく。女の子は受け取ったカップをしばらく眺めてから、ふと顔を上げた。
「お金、いらないの?」
「ここで飲む分はね。持って帰るのはなし」
「分かった!」
子どもたちは軒下に並んで座り、代わる代わるカップを傾けた。
数日後、最初に店先で休んでいった男が、布袋を抱えて入ってきた。
「置き薬の傷薬を使った。これで足りるか」
袋の中には、小ぶりな果実がいくつか入っている。
「十分です。傷はどうしました」
「鎌で指を切っただけだ。洗ってから薬を塗った」
「あとで見せてください」
「ああ、その前に。子どもらが騒いでたやつ、一杯もらえるか」
男は店の隅の小樽を指した。カップに注いで渡すと、男は一口飲み、樽の側面を軽く叩いた。
「樽のポーションってところか」
「ポーションというほど強くありませんよ」
「分かりやすくていいだろ」
男はそう言って笑い、傷を見せるために椅子へ腰を下ろした。
翌日の夕方、別の村人が戸口から顔をのぞかせた。
「薬屋さん。樽のポーション、まだ残ってるか」
シャーロットは小樽の蓋を持ち上げ、中を確かめる。
「一杯分なら」
棚から木のカップを取り、樽の栓へ手をかけた。




