↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/40

ep.18 無料の樽ポーション

 その日は朝から日差しが強く、戸を開けていても店の中には熱がこもっていた。


 昼過ぎ、畑仕事帰りの男が、逃げ込むように店先の日陰へ腰を下ろした。顔は赤く、額から汗が止まらない。


「少し休んでいってください」


 水を渡すと、男は半分ほど一気に飲み、大きく息を吐いた。


「助かる……今日は特にきつい」


「残りはゆっくり飲んでくださいね」


 男を見送ったあと、シャーロットは調合台の隅に積まれた果実へ目をやった。形が悪く、町では売れないからと村人が持ってきた物だ。一人で食べ切るには少し多い。


 腐らせるくらいなら、と刻んで水に入れ、疲れを軽くする薬草をほんの少しだけ加えてみる。畑仕事の後に残る身体の重さが、わずかに楽になる程度のものだ。


 一口味を確かめる。果実の甘みが立ち、薬草の匂いはほとんど気にならない。


「これなら、飲めるかな」


 水差し一つ分だけ作り、井戸水を張った桶に入れて冷ましておいた。


 夕方、いつものように店を覗きに来た二人の子どもへ、シャーロットは試しにカップを差し出した。


「これ、飲んでみる?」


 女の子が恐る恐る口をつける。次の瞬間、目を丸くした。


「あまーい!」


「そんなに甘くしたつもりはないんだけどな」


 戸惑いながらも、シャーロットは自分でも一口飲み直してしまう。


 隣の男の子が、女の子のカップを覗き込んだ。


「僕も飲みたい」


「はい。急いで飲まないでね」


 二人は並んでカップを傾け、あっという間に飲み干した。女の子が空になったカップを差し出す。


「もう一杯!」


「今日は一人一杯。残りは、あとで来た人の分ね」


「明日もある?」


「果物が残っていたらね」


 翌日、二人は友達を三人連れてやってきた。水差しは、全員に一杯ずつ注いだところで底を突いた。


「もうないの?」


「今日は終わり」


「明日はもっと作って」


「入れ物があればね」


 子どもたちを見送ったあと、シャーロットはグレアムの家を訪ねた。事情を話すと、村の集まりで水を入れていた小樽を貸してくれた。


 よく洗い、翌朝は前日より多めに仕込む。小樽は大きな桶に入れ、周りに湧き水を張って冷やしておいた。


 昼前、昨日の子どもたちがそろって顔を出した。


「昨日の、ある?」


「今日は少し多めに作ったよ」


 調合台の脇を指すと、女の子が小樽へ駆け寄り、その周りをぐるりと回った。


「樽に入ってる!」


「倒さないでね」


 木のカップへ注ぎ、一人ずつ渡していく。女の子は受け取ったカップをしばらく眺めてから、ふと顔を上げた。


「お金、いらないの?」


「ここで飲む分はね。持って帰るのはなし」


「分かった!」


 子どもたちは軒下に並んで座り、代わる代わるカップを傾けた。


 数日後、最初に店先で休んでいった男が、布袋を抱えて入ってきた。


「置き薬の傷薬を使った。これで足りるか」


 袋の中には、小ぶりな果実がいくつか入っている。


「十分です。傷はどうしました」


「鎌で指を切っただけだ。洗ってから薬を塗った」


「あとで見せてください」


「ああ、その前に。子どもらが騒いでたやつ、一杯もらえるか」


 男は店の隅の小樽を指した。カップに注いで渡すと、男は一口飲み、樽の側面を軽く叩いた。


「樽のポーションってところか」


「ポーションというほど強くありませんよ」


「分かりやすくていいだろ」


 男はそう言って笑い、傷を見せるために椅子へ腰を下ろした。


 翌日の夕方、別の村人が戸口から顔をのぞかせた。


「薬屋さん。樽のポーション、まだ残ってるか」


 シャーロットは小樽の蓋を持ち上げ、中を確かめる。


「一杯分なら」


 棚から木のカップを取り、樽の栓へ手をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。