ep.17 以前より休憩が多い
森へ入ってから二時間ほどで、ガレスが足を止めた。
「少し休ませてくれ」
先を歩いていたダリオが振り返る。
「もうか?」
「腕が重い。盾を持ち上げにくくなってきた」
今回の依頼は、森に入り込んだワイルドウルフ十二頭の討伐だった。
ここまでに倒したのは七頭。一頭ずつなら苦戦する相手ではなかったが、群れが森の中に散っており、見つけるたびに追いかけなければならない。
ガレスは大盾を木へ立てかけ、その場に腰を下ろした。
「腕を見せてください」
エステルが籠手を外す。皮膚に傷はない。ただ、腕を曲げ伸ばしするたびに、ガレスの顔がわずかに強張った。
「怪我ではなさそうです」
「何とかならないのか?」
「疲れを軽くすることはできます。でも、腕を休ませないと、またすぐ動かなくなります」
エステルが手をかざす。淡い光がガレスの肩から腕を包み、強張っていた表情が少し緩んだ。
「さっきよりは楽だ」
「すぐに盾を持たず、少し休んでください」
ダリオは空を見上げた。日はまだ高い。
「十分間だけ休む。そのあと、残りを片づけるぞ」
ミレーヌも近くの木へ背を預け、杖を膝の上へ置いた。額には薄く汗が浮いている。
「お前も疲れてるのか?」
「走り回ったから。魔力は、まだ平気」
「なら、次に見つけた奴はまとめて焼いてくれ」
「見つかればね」
十分後、四人は再び森を進み始めた。
八頭目はすぐに見つかった。木々の間から飛び出してきたワイルドウルフを、ガレスが盾で受け止める。ダリオが脇を抜け、一撃で首を斬った。
続いて現れた二頭へ、ミレーヌが炎を放つ。
一頭には直撃した。もう一頭は炎の端を抜け、エステルへ向かって走る。
「そっちへ行った!」
ダリオが声を上げる。
ガレスは盾を構えようとしたが、持ち上げるのが一瞬遅れた。
エステルが身を退く。ワイルドウルフの爪が、ローブの袖を浅く裂いた。
その直後、ダリオの剣が獣の背へ突き刺さった。
「大丈夫か?」
「傷は浅いです」
エステルは裂けた袖を押さえ、自分の腕へ回復魔法を使った。赤い線が消える。
ダリオは倒れた獣から剣を引き抜き、ミレーヌへ顔を向けた。
「仕留められなかったのか?」
「二頭とも狙ったけど、少しずれた」
「まだ撃てるんだろう?」
「撃てるわよ」
ミレーヌはそう答えたが、杖を握り直す手に力が入っていなかった。
残る二頭を見つけたのは、それから一時間後だった。
ミレーヌが火球を放ち、ダリオが逃げた一頭を追う。ガレスが進路を塞ぎ、どうにか二頭とも仕留めた。
「これで十二だな」
ダリオが剣を鞘へ戻した。
返事はない。
ガレスは盾へ腕を載せたまま、荒い呼吸を繰り返している。
ミレーヌも木の根元へ座り、魔力ポーションの栓を開けていた。
「また休むのか?」
「このまま戻る方が危ない」
ガレスが短く答えた。
ダリオは森の出口がある方角を見た。まだ歩かなければならない。
「前は、この程度で何度も休まなかっただろ」
「前より疲れるんだ」
「そのうち慣れる」
ダリオはそう言い、近くの木へ腰を下ろした。
エステルは三人の顔を順に見た。
「疲れたり、魔力が少なくなったりしたら、早めに教えてください。怪我をしてからでは遅いので」
「ああ。次はそうする」
ガレスが答えた。
ミレーヌは魔力ポーションを飲み終え、空になった小瓶を足元へ置いた。
休憩を終えて森を出た頃には、空が赤く染まり始めていた。




