ep.16 薬箱を抱えて村を回る
数日のうちに、薬箱を抱えて村を回ることが、シャーロットの日課になっていた。
店を開けたまま出歩くわけにはいかない。
開店前の早朝か、閉店後の夕方。昼に回るときは、「今日は昼から留守にします」と前もって貼り紙を出す。
一日に訪ねられるのは、多くても二軒だった。
話はもう村中に広まっていたようで、戸を叩く前から「ああ、薬屋さんかい」と迎えられることも増えた。
すんなりいかない家もあった。
村の外れに住む痩せた男は、木箱を抱えたシャーロットを見るなり眉をひそめた。
「施しは受けねえよ」
「施しではありません。薬を使ったら、その分だけ払ってもらいます」
「使うまで金を取らねえなら、借りと同じだろうが」
男の声は硬かった。
シャーロットは木箱を抱え直し、少し考える。
「では、先に預けてもらうのはどうですか?」
「先に?」
「卵や野菜、薪でも構いません。薬を使ったとき、その分から引きます」
男はしばらく黙っていたが、やがて家の脇に積んであった薪を二本持ってきた。
「これで足りるか」
「十分です」
シャーロットは帳面へ薪二本と書き込み、男にも見せた。
「薬を使わなければ、次の分へ残しておきますね」
「好きにしろ」
男はそう言いながらも、差し出された木箱は受け取った。
別の家では、逆に歓迎されすぎて困ることもあった。
「せっかく来てくれたんだから」と、お茶や漬物を出されて、なかなか腰を上げられない。
時間を区切って出てきているだけに、あまり長居はできなかった。
「すみません。そろそろ店を開けないと」
「ああ、そうか。悪いね、引き止めて」
帰り際には、繕い物に使える小さな布まで持たされた。
二軒目を回り終える頃には、開店の時間が迫っていた。
急いで店へ戻り、戸を開ける。
空になった背負い籠を下ろすと、シャーロットは帳面を開いた。
薪は薬代の預かり。
布はもらい物。
書き分けてから、今日預けた薬箱の中身も記録する。
一日二軒。
それでも、村の道は少しずつ覚えていった。
どの道が近道か。どの家の犬が吠えるか。どこの畑に大きな石があって躓きやすいか。
戸締まりの前、シャーロットは疲れた肩を軽く回した。
倉庫から次の木箱を取り出し、明日の分の薬を並べ始めた。




