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ep.13 薬を買えない家

 店を閉めたあと、包帯の替えを届けに行った帰り道だった。


 シャーロットは、道端の家から何度も続く咳の音を聞いた。


 戸口には、腰の曲がった老婆が座っている。顔色が悪く、咳き込むたびに肩が揺れていた。


「大丈夫ですか?」


 駆け寄って声をかけると、老婆は驚いたように顔を上げ、それから慌てて姿勢を正した。


「ああ……すまないね、驚かせて。ただの年寄りの咳だから」


 言葉とは裏腹に、咳はなかなか治まらない。


 額へ触れてみると、少し熱もあった。


「いつからですか、これ」


「もう五日くらいかねえ」


「五日も……薬は飲んでますか?」


 老婆は目を逸らした。


 何も答えない。それだけで、答えは分かった。


「うちは、そんな余裕ないから」


 小さな声だった。


 シャーロットは持っていた道具袋から、熱冷ましと咳を和らげる薬を取り出した。


「二日分だけ持っていってください」


「そんな、悪いよ」


「お代の話は、体調が戻ってからにしましょう。今は休んでください」


 老婆はしばらく薬包を見つめていたが、やがて両手で受け取った。


 シャーロットは薬の飲み方を伝え、水をこまめに飲むよう言い添えた。


「息が苦しくなったり、熱がもっと上がったりしたら、すぐ知らせてください」


「ああ。ありがとうね」


 老婆が家へ入るのを見届けてから、シャーロットは薬屋へ戻った。


 歩きながら、村で見かけた人たちを思い返す。


 畑仕事の合間に足を引きずっていた男。時折、長く咳き込んでいた子ども。看板を見ても、店の前を通り過ぎていく人々。


 これまでは、まだ様子を見られているだけだと思っていた。


 けれど、薬が必要でも店へ来られない家が、ほかにもあるのかもしれない。


 店へ戻ると、シャーロットは棚に残っている薬を一つずつ数えた。


 傷薬、熱冷まし、咳を和らげる薬。


 どれも、何軒へでも渡せるほど多くはない。


 倉庫を探し、使われていなかった浅い木箱を一つ取り出す。


 埃を拭い、調合台の上へ置いた。


 シャーロットは空の木箱を前に、棚の薬をもう一度見渡した。

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