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月曜日の、繰り返し

 月曜の朝、目を覚ました瞬間に決めていた。

 今日は曜日のループを観察する。

 先週の月曜日と、今週の月曜日。同じ曜日、同じ時刻、同じ場所で、何が起きるかを比べる。

 大学までの通学路は、毎週月曜日にほぼ同じ時刻を辿る。一限の前に学食で朝食を取るのが習慣で、家を出る時刻も自然と一定になっていた。

 駅のホームに着いたのは八時十二分。

 先週の月曜日も、ほぼ同じ時刻だった。

 ホームに立つ位置も、いつも同じ。先頭車両の三両目あたり。

 電車が来た。

 車両に乗り込んで、いつもの位置に立った。

 ドアの斜め向かい。手すりに左手をかけて、右手でスマホを見るのが、月曜の俺の定位置だった。

 目を上げて、車内を見渡した。

 乗っている人たちが、いつもの月曜日と、ほぼ同じ顔触れだった。

 いつもの月曜日に乗っているサラリーマン。いつもの月曜日に乗っている女子高生。いつもの月曜日に乗っている、ベビーカーを押す若い母親。

 車両ごとに、月曜日の乗客は決まっている。

 それは、当たり前のことだ。みんな、生活パターンを持っている。同じ時刻に同じ電車に乗る。

 でも、それだけではなかった。

 女子高生が、いつもの月曜日と同じページの本を読んでいた。

 ベビーカーを押す母親が、いつもの月曜日と同じ場所で泣きやまない子どもをあやしていた。あやす言葉が、先週の月曜日と一致していた。

「もうすぐ着くからね、おりこうにしてね」

 俺は、先週の月曜日もこの言葉を聞いた。

 子どもの泣き方も同じだった。

 俺の心臓が薄く冷えた。

 大学に着いた。

 学食で朝食を取った。

 いつもの月曜日と同じメニューにした。鯖の塩焼き定食。米の炊き加減も先週と同じだった。鯖の焦げ目の付き方も、先週とほぼ同じ位置に同じ形で焦げていた。

 俺は鯖を食べながら、観察を続けた。

 午前の授業を終えた後、俺は構内のコンビニに立ち寄った。

 ここで、決定的なことが起きた。

 俺がコンビニの自動ドアをくぐった時、レジに先客がいた。

 女性。三十代くらい。スーツを着て、髪を後ろで一つに束ねている。

 彼女が買っているのは、カップ麺だった。緑のラベルの、特定の商品。それと、ペットボトルの烏龍茶。

 その光景を見て、俺の足が止まった。

 先週の月曜日、俺はこのコンビニに同じ時刻に来た。

 その時、レジに同じ女性が立っていた。

 髪型も、スーツの色も、買っている商品も、すべて同じだった。彼女の左手の薬指に銀色の細い指輪が光っていた。先週の月曜日も、同じ位置に同じ指輪が光っていた。彼女の財布の色も、レジ袋を断る時の頷き方も、店員に「ありがとうございました」と言われた時の小さな会釈も、先週と寸分違わなかった。

 俺は、彼女が会計を済ませて店を出ていくのを、目で追った。

 女性は店の外で、左に曲がって、構内の別の建物に向かって歩いていった。

 先週の月曜日も、彼女は同じ方向に歩いていった。

 俺はレジの前で立ち尽くしていた。

 店員が「お次の方どうぞ」と俺に声をかけた。

 その声のトーンも、先週の月曜日と同じだった。

 会計を済ませて、コンビニを出た。

 外のベンチに座って、ノートを開いた。

 先週の月曜日のページを見た。書いてあった。

「八時十二分・駅ホーム・サラリーマンの本」

「八時三十分・学食・鯖塩焼き定食」

「十一時十五分・コンビニ・スーツの女性・カップ麺と烏龍茶」

 今日と同じだった。

 全部、同じだった。

 俺は新しいページを開いて、書いた。

「同じ曜日の同じ時刻には、世界が繰り返されている」

 線を引いた。

「これは偶然ではない」

 もう一度、線を引いた。

「世界は、設計されている」

 ペンを置いて、俺はベンチに背中を預けた。

 空を見上げた。

 雲の形が、先週の月曜日と同じに見えた。違うかもしれない。でも、確認する手段はなかった。

 桐谷から、また短いLINEが来ていた。

「先輩、最近変ですよ」

 俺は返さなかった。

 返事を考える前に、もう一つ気づいたことがあった。

 彼女はたぶん、俺以外の誰よりも俺の変化に気づいている。設計された世界の中で、設計から外れて俺を見ようとしている人間が、彼女かもしれなかった。

 でも今は返せない。

 返したら、彼女まで観察対象になってしまう。

 もし世界が設計されているなら、設計者がいる。

 設計者がいるなら、目的がある。

 目的があるなら、俺はその目的の中の、何者なのか。

 ベンチの背もたれに体重を預けたまま、俺はしばらく動けなかった。

月曜日のループ確認回。

コンビニのスーツの女性、三週連続で同じ時刻に同じカップ麺と烏龍茶。指輪の位置まで同じ。書きながら、世界の側がじっと主人公を試しているような気配を感じていました。

桐谷との関係性が静かに育っています。

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