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同期三人

 宮園さんとの特訓が始まって、一週間が過ぎた。

 発動時間は、安定して八秒。

 複数対象は、二人同時で二秒。

 視線が合った相手への発動は、まだできていない。

 でも、宮園さんは、一週間の進捗を「想定の倍」と評価した。

 その日の終わりに、彼女は言った。

「明日、同期と会わせる」

 俺はうなずいた。

 俺の中で、緊張のメーターが、別の場所に振れた。

 戦闘ユニットの三人と顔合わせした時とは、違う種類の緊張だった。

 帰り道、俺はノートに、想定問答を書き出した。

 同期は三人。

 宮園さんから事前に、軽く情報をもらっていた。

 早瀬涼介、二十代後半、元ITエンジニア、知的・冷静・皮肉屋傾向。

 河合真理、二十代前半、元大学院生(哲学系)、内向的・思考型。

 黒瀬蓮、三十代前半、元自衛隊員、寡黙・実直・任務遂行型。

 三人の専門は、それぞれバグD、バグC、バグEの応用だという。

 つまり、俺と被っていた。

 俺はバグA・B・C・D・Eを発見し、応用できる。

 彼らはそのうちの一つずつを、専門に深めている。

 俺は、規格外、と言われた意味を、少し、理解し始めていた。

 翌日、特訓室に入ると、すでに四人いた。

 宮園さんが、奥のホワイトボードの前に立っていた。

 彼女の前に、三人が、横一列に並んで立っていた。

 俺は、入り口で、軽く頭を下げた。

「遅くなりました」

「時間通り。気にしないで」

 宮園さんは笑った。

「みんな、こちら、遠野くん。先週から特訓に入った、新しい同期」

 三人が、それぞれ俺を見た。

 左から順に、俺は彼らの顔を、目で追った。

 左の男性は、細身で、髪が長めだった。

 眼鏡をかけていて、目は細かった。

 でも、その細い目の奥が、油断のない光を持っていた。

「うわ、噂のあの人ね」

 彼は最初に口を開いた。

 声には、軽い皮肉が混じっていた。

「俺は早瀬。よろしくね、遠野くん」

 俺は頭を下げた。

 早瀬涼介。元ITエンジニア。皮肉屋。

 最初の挨拶から、宮園さんの事前情報通りだった。

 真ん中の女性は、小柄で、顔が小さかった。

 髪は黒くて、まっすぐ後ろで縛っていた。

 彼女は俺を、じっと観察していた。

 でも、声は出さなかった。

「河合です。よろしくお願いします」

 ようやく、彼女は短く言った。

 その声は静かで、細かった。

 でも、その目の奥には、何かを問い続ける光があった。

 河合真理。元大学院生(哲学系)。彼女もまた、宮園さんの事前情報通りだった。

 右の男性は、背が高くて、肩幅が広かった。

 髪は短く、姿勢は完璧だった。

 彼は俺を見て、ただ、短く頷いた。

 声は出さなかった。

「黒瀬」

 最後に、彼は短く名乗った。

 それだけだった。

 黒瀬蓮。元自衛隊員。寡黙・実直。

 三人とも、宮園さんの事前情報の通りだった。

 宮園さんが、四人の前で、改めて口を開いた。

「これから、四人で特訓を進める。私は、君たちの教官役。でも、四人で動く時間は、四人で動いてもらう」

 四人は、それぞれ頷いた。

「今日は、お互いの能力を見せ合う日にする。早瀬から行こう」

 早瀬は、わざとらしく一歩前に出た。

「俺の専門は、バグD、上書き。記録優先」

 彼は、宮園さんからもらったノートを開いた。

 ノートのページに、何かを書き込んだ。

 書き込んだ瞬間、ページの隅の数字が、書き込み前と違う字体に変わった。

 俺の目の前で、書き込みは「最初からそこにあったかのように、馴染んだ」。

「俺、これが得意。会計帳簿とか、取引記録とか、いじって、商売を変える系の話」

 彼の声は皮肉気味だった。

 でも、能力の質は、確かなものだった。

 俺は、思わず、うなずいた。

 次は、河合だった。

 彼女は前に出ずに、その場で、口を開いた。

「私は、バグC、書き換え」

 声は、静かだった。

「言葉の置き換え。相手の頭の中で、言語が、再描画される。私が言った言葉が、相手の中で、別の意味で着地する」

 彼女は、宮園さんに向かって、短く言った。

「『黄色』って何色ですか」

 宮園さんは、わずかに首を傾げた。

「赤」

 宮園さんは即座に答えた。

 その答えに、宮園さん自身が驚いていた。

 河合の発動は、「黄色」という単語を、宮園さんの中で「赤」に、瞬時に再描画したらしかった。

 河合は、満足そうに、わずかに頷いた。

 彼女の能力は、俺のバグCとは、少し違う使い方だった。

 俺は会話の流れ全体を再描画する。彼女は、単語一つを、ピンポイントで再描画する。

 俺は、感心した。

 最後は、黒瀬だった。

 彼は、相変わらず、無言だった。

 宮園さんが、彼に頷いた。

 次の瞬間、彼は、消えた。

 いや、消えたのではなかった。

 彼は、俺の認識の中から、抜け落ちた。

 俺の目は、彼の方を向いていた。

 でも、視線の焦点が、ほんの一瞬、彼の身体を通り抜けて、後ろの壁に流れた。

 彼の認知の上書きが、俺の中で起きた。

 その瞬間、彼は俺の左側に移動していた。

 移動の動作は、たぶん、〇・二秒以内。

 俺の認知は、彼の最初の位置から、左側の位置への遷移を、見落としていた。

 俺は、息を呑んだ。

 彼のバグE、抜け落ちは、俺と同じ仕組みのバグだった。

 でも、発動時間は、俺より短かった。

 発動の精度は、俺より高そうだった。

「びっくりした?」

 黒瀬は、初めて、笑った。

 短い、控えめな笑みだった。

「俺は元自衛隊。短時間の認知遮断は、自衛隊の戦闘訓練に近い。だから、向いてる」

 俺は、首を縦に振った。

 彼の能力は、俺の能力の、もっと洗練された形だった。

 俺は十秒持続できる。彼は〇・二秒。

 でも、〇・二秒で、必要なことを終えるなら、それは、俺の十秒よりも、効率がいい。

 四人の能力提示が終わった後、宮園さんが、俺の方を見た。

「遠野くんも、見せてあげて」

 俺は、しばらく考えてから、口を開いた。

「俺は、バグC、D、Eの三つ、書き換え・上書き・抜け落ち、全部使えます」

 部屋の空気が、わずかに、変わった。

 早瀬の口が、半開きになった。

 河合は、目を細めた。

 黒瀬は、表情を変えなかった。

 でも、彼の目の奥が、わずかに、動いた。

 早瀬が、最初に口を開いた。

「お前、何で俺たちより強いの?」

 声は、皮肉ではなかった。

 純粋な、疑問だった。

 俺は、答えに、迷った。

「分かりません。気づいたら、こうなってました」

 早瀬は、ふっと笑った。

「やる気失くすわー」

 でも、その笑いには、敵意はなかった。

 ただ、戸惑いと、興味と、何か別の感情が、混じっていた。

 俺は、彼の顔を見ながら、自分が、新しい関係の中に入ったことを、確かめていた。

同期三人との初対面回。

早瀬の皮肉、河合の問い続ける目、黒瀬の沈黙の頷き、それぞれの第一印象を、書きながら自分も、初対面の場の空気を味わいました。

河合の「黄色」を「赤」に置き換えるバグCの一発、黒瀬の〇・二秒の認知遮断、それぞれ俺と同じバグの異なる使い方です。同じ能力でも、人によって、まったく違う形になる。これからの特訓で、四人がどう変わっていくか、楽しみに描いていきます。

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