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第49話:最終決算:アストライアの名の返上

「……Lot 001、勇者の才能『不屈の心』、送金確認。……Lot 002、聖剣の残骸スクラップ、美術品として落札。……全取引、完了です」


 通信塔アンテナの最上層に、電子的な入金音が心地よく響く。

 勇者レオであった「物体」は、もはや私を睨む気力もなく、警備ドローンによって『更生施設』へと運ばれていった。彼に宿っていた非合理な輝きは、今頃、銀河のどこかの富豪のコレクションルームで、静かに電力に変換されていることだろう。


「……お嬢様。……あ、いえ、CEO。……これで、この星の『不確定要素』はすべて排除されましたね」

 セラフィナが、完璧に整えられた惑星の活動ログを表示する。

 不透明な魔力流動(マリアの奇跡)も、放漫な利権構造(王族)も、もう存在しない。


「いいえ、セラフィナ。……まだ一箇所、私の帳簿に『赤字』として残っている項目があります」


 私は、足元に広がる王都……もとい、『ノアール地上物流拠点』を見下ろした。

 その中心部、かつてアストライア公爵邸と呼ばれた場所は、今や『ノアール清掃部門・第1研修所』へと作り変えられている。


「……最後の一片ピースを、回収に行きましょう」


 重力足場で地上へ降り立った私の前に、一人の老いた「掃除夫」が立ちふさがった。

 泥にまみれた作業着。かつての威厳を欠片も残さず、必死に床を磨いているその男は、私の姿を見るなり、縋るような叫び声を上げた。


「……え、エリシア! 待っていた、待っていたぞ! ……見てくれ、私は言われた通り、この屋敷……いや、研修所をピカピカに磨き上げた! ……これで十分だろう? ……さあ、もう一度私を『父』と呼び、公爵家の復興を宣言してくれ!」


 元・アストライア公爵。私の実父だ。

 彼は、私が手に入れた「銀河規模の富」を見て、ようやく理解したらしい。自分が捨てた「ゴミ」が、実は「宇宙そのものを買い取れる金鉱」であったことを。


「公爵閣下。……清掃状況の確認(検収)は、後ほど担当のドローンが行います。……私がここに来たのは、貴方の働きを褒めるためではありません」


 私は冷たく言い放ち、空中に一枚の、真っ白な「公文書」を展開した。


「……アストライア公爵家、最終決算報告です。……公爵家の資産価値は現在、マイナス。……よって、法的に『倒産(消滅)』の手続きを開始します」


「……な、何を言っている! 私が生きている限り、アストライアの血は絶えん! 貴女の中にも、私の血が流れているのだぞ!」


「『血』。……それが、最も非合理で、不透明な契約形態です」


 私は眼鏡を直し、アストラ監査官に顎で合図を送った。

 アストラが、私の掌に銀色に輝くスキャナーをかざす。


「……これより、アストライアの血統に付随する『魔力パス』および『家系認証コード』を、すべて無効化デリートします」


「……な、何をする気だ……!?」


「アストライアという名は、私を縛る『負債』でした。……私を道具として使い、不要になれば捨て、今度は利益のために縋る。……その一連の非効率な感情の連鎖を、本日をもって断ち切ります」


 私は、システム上の『Delete』ボタンを、躊躇なく叩いた。


 刹那。

 公爵の体から、微かな光の糸が引き抜かれ、私の指先で霧散した。

 この星の王立記録所に保管されていた戸籍データ、公爵邸の礎に刻まれた魔法の刻印、そして何より、私の中に流れる「アストライアの記憶」という名のバイアスが、一瞬でゼロへと書き換えられた。


「……あ、あああああ……っ! 消える……公爵家の誇りが、記憶が……!」


 公爵が頭を抱えて叫ぶ。

 だが、それは単なるデータの削除だ。

 彼の中に残ったのは、ただの「無能な老人」という事実だけだった。


「……本日午前十時をもって、アストライアという姓は、銀河の登録商標から抹消されました。……私の名は、ただの『エリシア』。……あるいは、ノアールそのものです」


 私は、呆然と座り込む老人を一度も振り返ることなく、カイルムが差し出した漆黒のコートを羽織った。


「エリシア様。……おめでとうございます。……これで、貴女を縛る『過去デット』はすべて完済されました」


「ええ。……長かったですね、カイルム。……でも、これでようやく、本当の『事業計画』を始められます」


 私が王都の空を見上げると、そこにはアイザック所長が調整を終えた、巨大な「次元間ゲート」の光が渦を巻いていた。


「……この惑星テラの整理は、すべて完了しました。……アイザック所長、ゲートの出力を最大に。……ターゲットは、隣接する第34次元市場。……あそこの会計基準、かなり乱れているようですから」


「了解だ、エリシア……いや、CEO! 全次元の帳簿を、君のペンで真っ黒(黒字)にしてやろうぜ!」


 私の眼鏡が、虹色に輝く次元の狭間を捉える。

 令嬢エリシア・アストライアは、死んだ。

 ここにいるのは、全宇宙を監査し、再編し、最適化する、唯一無二の「ノアール」だ。


「……さあ、行きましょう。……無駄のない、完璧な世界バランスシートを作るために」


 私の最初の一歩と共に、宇宙の扉が、凄まじいエネルギーを放って開かれた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第49話。ついにエリシアは、自分を捨てた「実家」の戸籍すらも消去し、

「アストライア」という呪縛から完全に解き放たれました。

父親に「他人」として冷徹に接し、過去をすべて「デリート」する……

実務系令嬢の復讐劇として、これ以上の「清算」はないでしょう。


次回、第50話。第5章、完結回!

惑星テラの全工程を終え、エリシアの視座はついに

多次元マルチバース」という、さらなるカオスな市場へ。

隣の宇宙は、なんと「魔法が文明の邪魔をしている」暗黒の放漫経営!?

新章の幕開けとなる第50話、どうぞご期待ください。


この「過去を捨てて銀河へ羽ばたく物語」を応援してくださる方は、

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皆様の応援が、エリシアの「次元移動」の燃費を向上させます。

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