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第48話:概念のオークション:勇者の才能を売る

「……っ、そこまでだ、エリシア・アストライア!」


 再開発が進む王都の中央。銀河と繋がる巨大な通信塔アンテナの最上層に、一人の少年が立ちはだかっていた。

 燃えるような赤髪。その手には、この星の伝承にのみ語られるはずの『聖剣カレドヴルフ』が握られ、彼の全身からは「計算外」の輝きが溢れ出している。


「ほう。……カイルム、彼の照合を」


「完了しました。……アストライア王家の隠し子、および古の血脈。……銀河管理機構のデータベースによれば、彼の存在確率は0.000000001%以下。……まさしく、この星の防衛本能が生み出した『勇者』という名の抗体バグです」


 少年の名はレオ。

 彼は叫び、聖剣を振りかざした。


「父上やマリア様を貶め、この街の思い出を塗りつぶす魔女め! 僕が、この一撃で貴様の冷たい支配を終わらせる!」


 レオが跳躍した。

 その瞬間、彼の背後に「数多の英霊」や「民の願い」といった、非合理的な魔力供給の奔流が視覚化される。それは物理法則を歪め、アイザック所長の構築した自動防御システムを紙細工のように切り裂いていく。


「……なるほど。……理屈を無視して『必ず勝つ』というフラグを無理やり立てるシステムですか。……アイザック所長、あれを『力』としてではなく『資産』として定義できますか?」


『お安い御用だ、お嬢様! 「概念デフラグ・システム」起動! あのアホみたいな輝き、全部「分離可能なデータ」に変換してやるよ!』


 通信塔から放たれた、不可視の拘束光線がレオを包んだ。

 勇者は叫び、聖剣を振り抜こうとするが、彼の腕は空中できっちり停止した。筋力が足りないのではない。彼の「勇気」という概念の所有権が、ノアール社のクラウドへ強制移行されたからだ。


「な……っ、力が……力が抜けていく!? 聖剣、どうしたんだ!」


「レオ様。……貴方のその輝きは、大変に希少価値が高い。……ですが、貴方という非効率な『個人』が持っていても、宝の持ち腐れです」


 私はレオの眼前に、銀河全域に向けた「リアルタイム競売オークション」の画面を投影した。


「銀河の投資家の皆様、注目してください。……本日目玉の商品は、惑星テラ産の極上品。……『勇者の才能:不屈のパッシブ』および『宿命の聖剣:使用権』です」


 画面には、瞬時に銀河中の大富豪や、紛争惑星の指導者たちの入札ログが流れ始めた。


> **【Lot 001:不屈の心(勇者の才能)】**

> 開始価格:1,000億クレジット

> **入札:1,200億……1,500億……2,000億!**


「あ……あ……っ、僕の……僕の心が……切り売りされてる……?」


 レオの体から、黄金の粒子が剥がれ落ち、ノアールのクリスタル・コンテナへと吸い込まれていく。

 粒子を失うたびに、彼の瞳から「輝き」が消え、ただの怯えた少年の眼差しに戻っていく。


「貴方の『不屈の心』は、現在、辺境の独裁国家の指導者が落札しました。……彼は貴方の才能をインプラントすることで、どれほどの暗殺危機にも屈しない強靭なメンタルを手に入れるでしょう。……貴方の才能は、初めて『有効活用』されるのです」


「やめろ……返せ……! それは僕の……僕の誇りなんだ……!」


「誇り、ですか。……残念ながら、先ほど落札された時点で、その誇りの著作権は他者に移転しました。……今、貴方が感じているその絶望は、貴方自身の『所有物』ですので、自由にしていただいて結構ですよ」


 私は、手元のマスター・デバイスで「売却完了」のハンコを押した。

 勇者レオの手から聖剣が滑り落ち、カランと虚しい音を立てて石畳に転がる。

 もはや、ただの重い鉄屑にすぎない。


「……お嬢様。……『勇者』という最強のカードすらも、ただの『パーツ』として売り飛ばしてしまうなんて」

 セラフィナが、天文学的な額のクレジットがノアールの口座に振り込まれるのを見て、戦慄したように呟く。


「才能は有限のリソースです。……特定の個人が独占し、それを感情任せに浪費するなど、銀河CEOとして見過ごせません。……さて、アイザック所長。……この収益で、惑星テラの『最終決算』の準備を整えてください」


 レオは、力が抜けた体でその場に座り込み、虚空を見つめていた。

 彼の中には、もはや私を憎むエネルギーすら残っていない。すべては「適正価格」で市場に流出したのだから。


「カイルム。……最後は、あの場所へ行きましょう。……アストライア公爵邸の跡地。……そこで、私がアストライアの姓を捨てるための、最終的な事務手続きを行います」


 私の眼鏡の奥で、すべての帳簿が閉じようとしていた。

 令嬢エリシア・アストライアとしての、最後の「署名」の時間が近づいていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「勇者の才能」をその場でオークションにかけ、

バラバラにして銀河の大富豪に売り飛ばすエリシア。

王道ファンタジーのクライマックスを「資産の流動化」で完封する、

彼女の徹底した合理主義は、もはや恐怖すら感じさせますね。


次回、第49話。第5章、いよいよ佳境!

すべての敵を排除し、惑星を整理し終えたエリシア。

彼女が最後に向かうのは、かつて自分を捨てた「実家」の跡地。

そこで彼女は、アストライアという過去を完全に清算し、

一人の「ノアール」として、新たな次元への扉を開きます。


この「最強事務官の卒業」を応援してくださる方は、

ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いいたします!

皆様の応援が、エリシアの「最終決算」の精度を100%に高めます。

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