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第47話:非合理な反乱:感情という名のテロ

黒煙が、完璧に整列された第7居住区の白亜の壁を汚している。

 私の眼鏡デバイスに、損害状況がリアルタイムで刻まれていく。


『壁面装甲の破損:0.02%』

『公共通信インフラの遅延:300ミリ秒』

『人的被害:テロリスト3名の完全消滅』


 被害そのものは、微々たるものだ。私の資産に傷がついたと言えるレベルですらない。

 しかし、その「動機」が、私のシステムの処理許容範囲キャパシティを超えていた。


「エリシア……! 聞こえるか、冷血な魔女め!」


 崩れた瓦礫の上、生き残った数名の男たちが、自分たちの体に魔力爆弾を巻き付けながら叫んでいる。

 かつて王宮の門番をしていた騎士たち。彼らの瞳には、恐怖ではなく、狂気じみた「熱」が宿っていた。


「俺たちは貴様の『効率』など認めない! 先祖の墓を潰し、思い出の酒場を機械のビルに変えた貴様を殺し、俺たちも死ぬ! 死を持って、貴様の数字を汚してやる!」


 私は、重力足場で彼らと同じ高さまで降り立ち、首を傾げた。


「……理解不能です。カイルム、彼らのバイタルを確認して」


「了解。……心拍数、血中アドレナリン、共に閾値を突破。……エリシア様、彼らは理性ではなく、ドーパミンと『自己犠牲の陶酔』に支配されています。……説得の成功確率は、現在0.003%です」


 カイルムの報告。それは「対話」というリソースの無駄遣いを意味していた。


「……騎士の皆様。貴方がたは先ほどから『死』を報酬(対価)にしようとしていますが、その評価額を考えたことがありますか?」


「何……?」


「貴方がたがその爆弾を起爆させ、ここで命を絶った場合。……生じるのは、この壁の清掃費用、金貨3枚分と、後続の物流ドローンの回避航路設定に伴う電気代、銀貨12枚分。……それだけです」


 私は指を鳴らし、彼らの足元に「請求書」のホログラムを投影した。


「貴方がたの命の価値は、現在、弊社の清掃ドローンの予備バッテリー1個分にも満たない。……それなのに、なぜそこまで『高コストで不採算な抗議』を選ぶのですか? 死ぬよりも、私の指示通りに15時間労働に従事する方が、社会に対する『償い』としては1万倍マシな数字が出ますよ」


「黙れ! 数字じゃない、誇りの問題だ! 死ね、エリシア・アストライア!」


 リーダー格の男が、起爆スイッチに指をかけた。

 一瞬、空気が張り詰める。だが、爆発は起きなかった。


 彼の指が動くよりも早く、アイザック所長が衛星軌道から照射した『分子運動停止レーザー』が、空間ごと彼らを凍結させたからだ。


「……っ!? 体が……動かない……!?」


「アイザック所長、お疲れ様です。……カイルム、彼らを拘束し、『感情指数(EQ)抑制病棟』へ移送しなさい。……それから」


 私は、絶望に顔を歪める男たちの耳元で、冷酷に囁いた。


「貴方がたの遺族、および親族すべてのIDに、今回のテロ未遂に伴う『機会損失賠償金』を課税タックスしました。……貴方がたが勝手に死のうとした『思い出』の代償は、貴方がたの大切な人々が、一生かけてノアールの鉱山で働くことで支払われます」


「……あ、ああ……っ、そんな……! 俺たちだけでいい、彼らは関係ないはずだ!」


「連帯保証人。……王国時代の法典にもあった概念でしょう? ……非合理な行動には、非合理なほどのペナルティが課される。……それが、私の街のルールです」


 男たちが、泣き叫びながら兵士たちに引きずられていく。

 そこに「誇り」や「英雄的犠牲」の余地は微塵もなかった。

 残ったのは、ただの「負債を抱えた犯罪者」という無残なレッテルだけだ。


「……お嬢様。……流石に、今のやり方は少し……『愛』がないと言われても仕方ないわね」

 セラフィナが、黒煙が消えた壁を見つめながら呟く。


「愛? ……ああ、そういえば」


 私は、手元のデバイスで、宇宙のデータベースにアクセスした。

 そこには、これまで無視してきた「非合理」の極致である、あるキーワードが不気味に発光していた。


「……『勇者』。……アストラ、この惑星の過去のログにある、この概念。……『圧倒的な不利を、根性という名の未知のエネルギーで覆す存在』。……これの発生確率と、現在の防衛システムでの勝率を算出しなさい」


 アストラが、無機質な瞳を明滅させる。

「……算出不能。……勇者とは、銀河管理機構において『バグ』として定義されています。……理論を無視し、死を力に変える。……それは、会計学における『粉飾』の極致です」


「……バグ、ですか。……なら、修正パッチを当てるまでです」


 再開発された王都。その地下深く、封印されていた「古の非合理」が、私の合理主義という光に照らされ、静かに目を覚まそうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「命を懸けたテロ」を「清掃代と電気代」に換算して切り捨てるエリシア。

自分の死すら「不採算」と判定される恐怖は、

どんな暴力よりも相手の心を折る事務処理ですね。

遺族への「連帯保証」を盾にする冷徹さも、彼女の「リスク管理」の徹底ぶりが伺えます。


次回、第48話。

ついに「論理」の天敵である『勇者の概念』が登場!

逆境であればあるほど強くなる、という物理法則無視の存在に対し、

エリシアが提案する解決策は……なんと「勇者の才能のオークション」!?

力さえも「概念の切り売り」で資産化する、驚愕の展開にご期待ください。


この「感情すらも管理下に置く物語」を支持してくださる方は、

ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いいたします!

皆様の応援が、エリシアの「感情抑制システム」の精度を向上させます。

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