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第46話:惑星規模の地上げ(リ開発)

「……非効率インエフィシェンシーですね」


 私は王宮のバルコニーから、眼下に広がる王都を見下ろした。

 千年の歴史? そんなものは、私にとっては「最適化を妨げる積年のノイズ」でしかない。

 迷路のように入り組んだ路地、日照権を無視して重なり合う石造りの家々、そして下水の処理すら満足にできていない運河。


 かつて私が愛でた「懐かしい景色」は、銀河CEOの眼鏡を通せば、ただの「死に筋の不動産」だった。


「セラフィナ。全住民の『立ち退き通知エビクション』の進捗は?」


「完了しているわ、お嬢様。……もっとも、『先祖代々の土地だ』とか『この店には思い出がある』なんて叫んでいる連中が、中央広場に座り込んでいるけれど。……どうする? 警備ドローンで排除デリートする?」


「いえ、彼らには『数字』を教えてあげましょう。……カイルム、拡声アナウンスを」


 私はバルコニーから一歩踏み出した。私の足元には、見えない重力制御の足場プラットフォームが即座に形成され、空中で私を支える。


「アストライアの市民たち。……貴方がたが守ろうとしているその『思い出』の維持費は、現在、この街の生産性のマイナス240パーセントを記録しています」


 広場に集まった群衆が、一斉に私を見上げた。怒りと恐怖が混ざった数万の視線。


「この街の路地が曲がっているせいで、物資の配送効率は銀河標準より800年も遅れている。……貴方がたがその汚い路地を歩くたびに、人生の貴重な3パーセントが『移動という無駄』に浪費されているのです。……私は、貴方がたからその『損失』を奪いに来ました」


「ふざけるな! ここは俺たちの街だ! お前の数字なんて知ったことか!」


 一人のパン屋の店主が拳を突き上げた。

 私は冷たく微笑み、指をパチンと鳴らした。


「アイザック所長。……『グリッド整列アライメント』を開始してください」


「了解だ、お嬢様! さあ、旧時代のゴミ掃除の時間だ!」


 轟音。

 地響きと共に、王都の地面に巨大な青い光の線が走った。ノアール社が誇る『超音波解体ドローン』の群れが、雲を突き抜けて降下してくる。


 それらは、一軒一軒の建物を壊すのではない。

 空間ごと「再定義」するのだ。


 市民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、複雑に入り組んでいた石造りの壁が、光の粒子となって分解されていく。

 代わって地面からせり出してきたのは、継ぎ目のない「ナノ強化カーボン」の滑らかな路面と、機能性を極限まで追求した「居住用カプセルユニット」のビル群だった。


「あ……あ……っ、俺の店が……!」


「店は無くなっていません。……あちらの第4セクター、座標B-12に、完全自動化された『製パンユニット』として再配置しました。……これまでの10倍の生産量、かつ0.1パーセントの廃棄率ロスで、貴方に利益をもたらすでしょう」


 わずか数分。

 千年の歴史を持つ王都は、その姿を完全に変えた。

 視界の果てまで整然と並ぶ、直線と直角の世界。

 空には、魔導衛星と直接通信する巨大なアンテナタワーがそびえ立ち、地脈の魔力は「スマート・グリッド」によって一滴の無駄もなく管理されている。


「……これが、私の描く『秩序オーダー』です」


 街から「混沌」が消えた。

 不衛生な路地も、隠れ潜む場所も、そして「非効率な偶然」も、すべてが排除された。

 市民たちは、自分の身分証(ID)に刻まれた「推奨労働スケジュール」に従って、無機質なユニットの中へと吸い込まれていく。


「……お嬢様。……これでもう、この街から『無駄な感情』は消えたわね。……みんな、お嬢様の作った時計の歯車になったわ」

 セラフィナが、完璧に整えられた都市ログを見て呟く。


「ええ。……感情は、生産性を落とす不純物ですから。……さて、カイルム。……次のセクターの工事を――」


 その時だった。

 

 私の眼鏡が、一つの「予測不能な異常イレギュラー」を検知した。

 

 再開発されたばかりの「第7居住区」の一角で、原因不明の爆発が発生したのだ。

 それは魔力の暴走でも、システムの不具合でもない。

 

 『死ぬまで伝統を守る』という、損得勘定を完全に無視した、あまりにも「非合理な自爆テロ」。


「……報告します、エリシア様。……旧市街の残党たちが、自分たちの体に火をつけ、物流ハブの制御装置に突っ込んだようです。……彼らは『数字に支配されるなら、死を選ぶ』と叫んでいます」


 カイルムの報告に、私は微かに眉を寄せた。


「死を選ぶ……。……なんと、コストの悪い選択をするのでしょう」


 論理と数字で世界を支配した私の前に、ついに「論理では説明できない敵」が姿を現そうとしていた。

第46話、最後までお読みいただき、ありがとうございます!


千年の歴史を数分で「解体・再編」するエリシアの暴力的なまでの効率化。

パン屋の思い出すら「製パンユニット」として最適化してしまう

彼女の事務処理は、もはや神の摂理(あるいは悪夢)そのもの。

街全体が巨大なコンピューター回路のようになる描写、楽しんでいただけましたか?


次回、第47話。

エリシアが最も嫌悪する「非合理な反乱」が本格化します。

「損をするからやめなさい」という説得が一切通じない、

感情に狂ったテロリストたち。

エリシアは、この「計算できないノイズ」をどう『処理』するのか。

リスクヘッジの極致、ご期待ください!


この「惑星の地上げ」を支持してくださる方は、

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皆様の応援が、エリシアの「再開発予算」をさらに増額させます。

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