第45話:アストライア公爵家の『民事再生』
石礫が、地面に這いつくばる「元・聖女」を叩き続ける。その喧騒を背に、私は迷いのない足取りで王宮のバルコニーへと視線を上げた。
そこには、かつて私を「アストライアの恥晒し」と呼び、冷たい雨の日に馬車一台で追い出した男たちが、震える手で欄干を掴んでいた。
私の実父、アストライア公爵。そして、その影で怯える放蕩者の兄。
「……あ、アストライアの家名を名乗る不届き者が! エリシア、何のつもりだ! 王族を侮辱し、聖女を汚し……! 父親である私に、これ以上不名誉を重ねさせる気か!」
父の怒号。しかし、それは喉元で掠れ、ただの怯えを隠すための雑音として風に散った。
「『父親』? ……公爵閣下。その言葉は、私の帳簿には登録されていません」
私はカイルムに顎で合図を送った。
瞬時に、数機のドローンが公爵たちのいるバルコニーへと急降下し、彼らを物理的な力で私の足元……広場の石畳へと引きずり下ろした。
「ぐはっ……! な、何をする! 離せ!」
泥にまみれた公爵と兄を、私は見下ろした。眼鏡のレンズ越しに、アイザックが衛星から送ってきた「アストライア公爵家の経営実態報告書」が流れる。
「……アストライア公爵家。……放漫経営による債務超過、過去三代にわたる領地管理のネグレクト。……閣下、貴方が誇るその家名は、現在、銀河基準では『負の遺産』としてカウントされています」
「何を……っ、たかが小娘が、公爵家の歴史を語るな!」
「語るのは私ではなく、この数字です」
私は空間に、公爵家の資産推移グラフを展開した。右肩下がりどころか、垂直に落下する絶望的な線。
「貴方が維持しようとしていた豪華な生活費、兄上の賭博による損失。……これらはすべて『将来の収益を担保にした前借り』でしたが、その裏付け(担保)となっていたのは、私を追放したことで得られるはずだった王家との繋がりでした。……しかし、その王家は先ほど私が『買い叩いた(チャプター11)』ばかりです」
私は、兄の方を一瞥した。彼は私と目が合うなり、情けなく悲鳴を上げて後ずさった。
「……お兄様。貴方が浪費した金貨一枚ごとに、領民の子供一人の教育機会が奪われました。……貴方の存在そのものが、我が社にとっては『非効率の塊(産業廃棄物)』に他なりません」
「い、いやだ……! 俺を殺さないでくれ、エリシア! 妹だろう!? 助けてくれ!」
「殺しませんよ。……死体は処理コストがかかりますから。……本日をもって、アストライア公爵家の『民事再生』を執行します」
私は一枚の、真っ赤な「吸収合併通知書」を父の額に叩きつけた。
「アストライア公爵領、および屋敷を含む全不動産は、本日を以てノアール・ホールディングスに吸収されます。……公爵家は消滅し、貴方がたは我が社の『地上清掃部門』の臨時作業員として、再雇用されることになりました」
「せ、清掃部門だと……!? この私が、下卑た掃除をしろと言うのか!」
「ええ。……これまでの人生で散らかした『負債』を、一生かけて片付けていただく。……それが唯一の、貴方がたの生存価値です」
私はカイルムに「掃除道具」を用意させた。
かつての公爵と後継者が、泥にまみれた手で、安物の雑巾とバケツを握らされる。
王都の民衆が、それを見て一斉にどよめき、やがて嘲笑の渦が巻き起こった。
「……さて。……ゴミの片付け(リストラ)は、これで一段落です」
私は背を向けた。
父や兄が何を叫ぼうと、もう私の耳には届かない。彼らは私の人生の「損益通算」において、既に処理し終えた端数に過ぎないからだ。
「……お嬢様。……いえ、CEO。……復讐の清算は、これで完了ね」
セラフィナが、満足げに手帳を閉じる。
「いいえ。……これはあくまで『不良資産の売却』です。……本当の『価値創造』は、ここから始まります」
私は王都の空を見上げた。
無駄な街並み、複雑すぎる路地、非効率な運河。
この古びた王都を、銀河と繋がる巨大な「物流ハブ」へと作り変える。
「カイルム。……全住民に通告しなさい。……明日から、この街の『解体と再開発』を開始すると。……拒否する自由はありません。……なぜなら、この星の土地はすべて、私の『占有資産』なのですから」
私の眼鏡が、再開発(地上げ)のシミュレーションデータを、冷徹に描き出し始めた。
第45話、最後までお読みいただき、ありがとうございます!
実父と実兄を「清掃員」に格下げし、実家を「消滅」させる。
「家族だから」という甘えを、数字と効率で粉砕するエリシア。
かつて自分を追い出した門の前に、父たちが跪く瞬間の爽快感、楽しんでいただけたでしょうか。
次回、第46話。
「復讐」の次は「再開発」!
エリシアが王都全体を「解体」し、銀河物流の拠点へと改造する『惑星規模の地上げ』が始まります。
伝統を重んじる住民たちと、エリシアの「重機」が激突!?
「思い出よりも、利便性を。愛よりも、効率を」
彼女の非情な都市計画にご注目ください。
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