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第44話:聖女の祈り、その「不正受給」の摘発

「やめて……やめてください! ジュリアン様になんて酷いことを……!」


 首に「債務者タグ」を嵌められ、ガタガタと震えながら虚空を見つめるジュリアン。その傍らで、マリアが悲鳴のような声を上げた。

 彼女の目には涙が浮かんでいる。かつてなら、王都の誰もがその涙に胸を痛め、彼女を守ろうと立ち上がっただろう。


「……マリアさん。涙で湿度が上がります。……その非生産的な水分放出を止めて、私の質問に答えなさい」


 私は彼女を一瞥もせず、空中に新たな解析ウィンドウを展開した。


「貴女がこれまで行ってきた『奇跡』。不治の病を治し、枯れた大地を蘇らせ、兵士たちの傷を癒やしたとされるその力。……その魔力の『出所』を、貴女自身は把握していますか?」


「そ、それは……神様が、私の祈りに応えてくださって……!」


「『神様』という名の不明瞭な勘定科目に逃げるのはやめなさい。……アイザック所長、衛星データの同期シンクロを」


「了解だ、お嬢様。……『天の目』が捉えた、過去三年の魔力流動パケットログを全市民の網膜に強制投影するよ」


 アイザックがキーを叩くと、王都の空を覆う巨大なスクロールが、鮮やかなカラーグラフィックに切り替わった。

 それは、マリアが「祈り」を捧げるたびに、王都全域から細い光の糸が彼女に集まっていく様子を示すシミュレーション映像だった。


「……マリアさん。貴女の魔力保有量キャパシティは、一般的な平民と大差ありません。……本来、奇跡を起こすほどの出力は出せないはずです。……しかし、貴女が『祈り』を捧げると、不思議なことに周囲の人間……特に、貴女を深く信仰している信者たちの生命エネルギーが、強制的にバイパスされている」


 私は、映像の一部を拡大した。

 マリアが病人の傷を癒やしている場面。その影で、集まっていた老人たちの「寿命」を示す数値が、数日分ずつ減少している。


「……な、なんだ、これは……」

 広場にいた市民の一人が、震える声を出した。

「私が……マリア様に祈りを捧げるたびに、体が重くなっていたのは……気のせいじゃなかったのか?」


「その通りです。……マリアさん。貴女がやっていたのは『奇跡』ではなく、**『エネルギーの無断横領』**です。……信者から少しずつ、気づかれない程度の活力を徴収し、それを一箇所に集めて見せびらかす。……いわば、他人の貯金を集めて自分の手柄として寄付する『偽善のロンダリング』ですよ」


「ち、違う……! 私はただ、みんなを救いたくて……!」


「善意の有無は、会計監査においては考慮されません。……問題なのは、貴女が『無償の奇跡』と偽り、実際には民衆から膨大な代価を奪っていたという事実です。……アストラ監査官、彼女の行為を銀河基準で格付け(レーティング)しなさい」


 アストラが、冷徹な機械音と共に宣告する。


「……対象:マリア。……行為:高エネルギー資源の未申告摂取、および公衆衛生を担保にした搾取。……判定は『寄生種パラサイト』に該当。……これまで搾取されたエネルギー総量は、銀河換算で小規模な恒星一分間の出力に相当します」


「……き、寄生虫……私が……?」


 マリアが絶望に顔を歪める。

 しかし、彼女を襲った本当の絶望は、私からの宣告ではなかった。

 

 背後から飛んできた、一つの石ころだった。


「返せ……! 俺の親父の命を、返せよ! マリア様に祈ったあの日、親父は急に老け込んで死んだんだ!」

「私の子供が病弱なのも、あんたが奇跡を起こすたびに力を吸い取っていたからなのね!?」


 怒号が、津波のように彼女を襲う。

 かつて彼女を称賛していた「祈りの声」は、今や彼女を呪う「怒りの咆哮」へと変わっていた。


「……マリアさん。貴女が積み上げた『名声』という名の資産は、実体のない『粉飾決算』によって成立していました。……その粉飾が暴かれた今、貴女に残ったのは、民衆からの天文学的な不信感(負債)だけです」


 私は、彼女の胸元に輝いていた聖印を、ドローンの牽引光線で無造作に引き剥がした。


「その聖印も、不正に得たエネルギーの『受信用アンテナ』として没収します。……これからは、誰の助けも借りず、自分の足で立ち、自分の魔力だけで生きていきなさい。……もっとも、これまで人から奪うことしかしてこなかった貴女に、その『コスト』が払えるとは思えませんが」


 マリアは石畳に這いつくばり、民衆の罵声を浴びながら、ただの「無力な女」として泣き崩れた。


 私は、彼女からも興味を失い、視線を王宮の奥――最も豪華な装飾が施された一角へと向けた。

 そこには、震えながらこちらを覗き見ている、我が実父・アストライア公爵と、その放蕩息子である兄の姿があった。


「……さて。……不良債権の処理は順調です。……最後は、私を『不良品』として捨てた、あの腐りきった実家の『民事再生』に取り掛かりましょうか」


 カイルムが、無言で私の隣に並ぶ。

 彼の手に握られた「監査執行用の白手袋」が、冬の陽光に冷たく反射した。

第44話、最後までお読みいただき、ありがとうございます!


聖女という名の「エネルギー横領犯」。

「祈れば祈るほど周囲が不幸になる」という真実を、

データで突きつけるエリシアの事務処理は、まさに悪魔的合理主義。

信じていた民衆が「敵」に変わる瞬間のカタルシス、いかがでしたか?


次回、第45話。

ついにエリシアの復讐劇は、最終ターゲットである「アストライア公爵家」へ。

自分を追放した父と兄に対し、

「家族の情」という非合理を一切排除した『徹底的なリストラ』を執行します。

公爵家が「ノアール子会社の清掃部門」へ格下げされる日は近いです。


この「因果応報の監査」を応援してくださる方は、

ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いいたします!

皆様の1ポイントが、次回の「公爵家への損害請求額」を跳ね上げます。

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