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第43話:権利の行使

膝の震えが、石畳にガチガチと音を立てて伝わっている。

 かつて私を「愛のない冷徹な女」と断じ、この王宮から追い出した男――ジュリアンは、今や崩れ落ちたまま、私を見上げる勇気すら失っていた。


「……あ……あ……」


 情けない声。喉を震わせるだけで言葉にならないその音を、私は「無駄な騒音ノイズ」として無視した。


「さて、ジュリアン殿下。いえ、債務者一号。私的な清算クロージングの時間です。……カイルム、例の『督促状インボイス』を展開して」


「御意」


 カイルムが手元の端末を操作した。

 次の瞬間、王宮の広場全体を覆い尽くすほどの、巨大なホログラムのスクロールが出現した。上から下まで、ビッシリと書き込まれているのは、すべてジュリアンに対する「請求明細」だ。


「……な、なんだ、この量は……っ! エリシア、貴様、何を企んでいる!」


「企む? 失礼ですね。これは正当な権利の行使です。……では、読み上げます」


 私は眼鏡の位置を直し、淡々と、しかし全王都に響き渡る声で告げた。


「項目1:不当な婚約破棄に伴う『アストライア公爵家ブランド』への毀損賠償。……当時の私の市場価値を、現在の銀河基準で逆算バックデートした結果、生じた機会損失を含め、金貨120万枚。

項目2:追放先までの移動、および生活基盤構築にかかった実費。……これは端金はしたがねですので、金貨5万枚で結構です。

項目3:これが最も重い。……私の『貴重な時間リソース』を、貴方との無益な婚約期間に浪費させたことに対する損害補填」


 私は、ジュリアンの絶望的な顔を至近距離から見つめた。


「私の1秒は、現在の銀河経済においては数百億クレジットの流動性を持ちます。……その貴重な時間を数年間も占有した『罪』。……それを銀河標準時(NST)の遅延利息を乗せて算出した結果――」


 ホログラムの最下部に、赤黒い文字で「最終合計」が表示された。


「……合計、金貨8,800兆枚。……および、銀河マナ・クリスタル換算で惑星三つ分の質量に相当するエネルギー原単位。……これが、貴方が私に支払うべき『代償』です」


 広場を埋め尽くしていた野次馬たちが、一斉に静まり返った。

 数字が巨大すぎて、もはや想像すら追いつかない。だが、ジュリアンだけは、その数字が「自分の人生を何億回繰り返しても払えない」ことだけは理解したようだった。


「ふ、ふざけるな! そんな金、この世界のどこを探してもあるわけがないだろう! 貴様、私を殺すつもりか!」


「殺す? とんでもない。死なれたら債権が回収不能(貸し倒れ)になります。……そんな不採算なことはしません」


 私は冷たく微笑んだ。


「本日をもって、貴方の全個人資産を差し押さえます。……カイルム、執行エグゼキューション


「了解しました」


 カイルムの合図で、上空のドローンから強力な牽引光線トラクタービームが放たれた。

 ジュリアンが身に付けていた金糸の外套、宝石を散りばめた剣、指輪。それらが物理的に剥ぎ取られ、ノアールのコンテナへと吸い込まれていく。


「やめろ! それは王家の家宝だ! 離せ、返せ!」


「それらすべてを売却しても、利息の一秒分にも満たないのが悲しい現実です。……さらに」


 私は指を鳴らした。

 ジュリアンの首元に、銀色に輝く「項輪カラー」が出現し、装着された。


「それは、銀河標準の『債務者管理タグ』です。……貴方の生命活動、排泄、睡眠、そして労働。そのすべてを数値化し、一歩動くごとに債務を0.0000001パーセントずつ相殺します。……安心してください。貴方が死んでも、その魂のデータはタグの中に保存されます。……次代の肉体に転生したとしても、債務は自動的に引き継がれるよう、銀河管理機構と契約済みです」


「……あ……ああ……」


 ジュリアンは、もはや叫ぶ力もなく、ガタガタと震えながら自分の首に触れた。

 死んで逃げることも、生まれ変わって忘れることも許されない。

 永劫に続く「返済」という名の地獄。


「これで、貴方の身分は『不渡りを出した不良債権ジャンク・アセット』として確定しました。……以後、名前で呼ばれることはありません。……『債務者一号』として、せいぜい馬車馬のように働いてください」


 私は彼から興味を失い、視線を横にずらした。

 そこには、震える手で聖印を握り締め、必死に「祈り」を呟いている女がいた。


「……さて。……次は、そこの『聖女(詐欺師)』。……貴女の『奇跡』という名の不正受給(公金横領)について、詳細な監査を始めましょうか」


 マリアの顔から、一気に血の気が引いた。

 私の眼鏡が、彼女の身体に流れる「盗んだ魔力」の波形を、冷酷に解析し始めていた。

第43話、最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「死んでも逃がさない」という、宇宙規模の督促。

かつてエリシアを追い出したジュリアンが、

「一歩歩くたびに借金を返す機械」に成り下がる姿……。

事務処理のプロが本気を出すと、死神よりも残酷ですね。


次回、第44話。

いよいよ聖女マリアの「監査」が始まります。

彼女が起こしてきた「奇跡」の裏側。

実は民衆から魔力を掠め取っていたという衝撃の事実を、

エリシアが衛星データで白日の下に晒します!

マリアのメッキが剥がれ落ちる瞬間を、どうぞお見逃しなく。


この「惑星規模の徹底清算」を支持してくださる方は、

ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いいたします!

皆様の応援が、エリシアの「差し押さえ」のスピードを上げます。

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