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第50話:次なる帳簿:多次元市場の門(ゲート)

「……次元間接続、安定。……同期率、99.9%を維持。……ノアール標準時、誤差なし」


 アストラ監査官の無機質な報告が、静止軌道上に浮かぶ『ノアール・オービタル・ハブ』の静寂を震わせた。

 私の目の前には、虚空を切り裂いて出現した「虹色の裂け目」が渦を巻いている。それはかつて古文書が『神の怒り』や『世界の終焉』と恐れた現象だが、現在の私にとっては、単なる「新規市場への配送ルート」に過ぎない。


「……お嬢様。……いえ、エリシア。……本当に行ってしまうのね」


 セラフィナが、少しだけ名残惜しそうに窓の外を見つめた。

 視線の先には、整然と再開発された惑星テラが、完璧な幾何学模様の光を放って輝いている。

 王族も、聖女も、私を捨てた実家も、すべてが「最適化」という名の再編を終え、今は秒単位で利益を生み出す安定した歯車へと姿を変えていた。


「『行く』のではありませんよ、セラフィナ。……『販路を拡大する』だけです。……この星の運営は、既にマニュアル化が完了しています。……私の居場所は、整理された椅子の上ではなく、整理が必要な『カオス』の最前線にあるのですから」


 私は、手元のマスター・デバイスに最後の「決算完了」の電子印を刻んだ。

 第5章、惑星テラ再建・最終決算――。

 すべての不良資産を処分し、過去の負債を清算した私の心境は、驚くほど軽やかだった。アストライアという姓を捨てた瞬間に、重力そのものが数パーセント軽くなったかのような錯覚。


「エリシア様。……次なる目的地、第34次元の先行スキャンデータが届きました」


 カイルムが、漆黒のコートを私の肩にかけながら、空間に新たなバランスシートを投影する。

 それを一目見た瞬間、私の眼鏡の奥で、数値が激しく点滅した。


「……っ、これは……何ですか? ……この非効率なグラフは」


「驚きましたか。……あちらの次元は、『魔法の才能』という不透明な指標によって社会階級が決定され、全人口の9割が『修行』という名の無給労働に従事しています。……さらに、エネルギー源である『マナ』の3割が、無意味な宮廷儀式や、見た目だけの花火魔法に浪費されているようです」


 アイザック所長が、頭を抱えながら画面を指差した。

『お嬢様、ひどいもんだぜ! あいつら、効率的な術式を開発する代わりに「詠唱を長くすれば威力が上がる」なんて根性論を信じてやがる。……宇宙の熱力学を無視した、正真正銘のバカ(放漫経営)だ!』


「……詠唱を長くすれば、威力が上がる……?」


 私は、その言葉を反芻し、思わず絶句した。

 時間というリソースをドブに捨て、不確実な感情をエネルギーの触媒にする。

 それは経営者として、いや、事務処理を愛する一人の人間として、断じて許容できるものではなかった。


「……決まりました。……カイルム、アイザック所長、アストラ。……出発を早めます」


 私は、鋭い眼差しで次元のゲートを見据えた。


「隣接宇宙の連中に、教えてあげましょう。……魔法の価値は詠唱の長さではなく、1ミリ秒あたりの『変換効率』で決まるのだということを。……無駄に長い呪文を唱えている間に、私の『規格』によって全資産を差し押さえてあげます」


「ははっ、いいぜ! 『詠唱短縮・特許料請求』の準備はできてる!」

「カイルム、準備を。……事務用品、および『強制買収(M&A)』用の法的ドキュメントをすべてゲートへ転送して」


 セラフィナが再び忙しなく指示を飛ばし、カイルムが無言で深々と一礼する。


 私の最初の一歩が、虹色の境界線を越えた。

 背後に広がる「整えられた世界」への未練は、一ミクロンも存在しない。

 

 私のペンが次になぞるのは、異次元の不条理。

 私の眼鏡が次に見通すのは、魔法という名の粉飾決算。


 令嬢エリシアの物語は、ここで終わる。

 そして、多次元経営者マルチバース・マネージャーノアールの、真の快進撃がここから始まる。


「……さあ。……世界中の『無駄』を、黒字に変えに行きましょうか」


 光の渦が私を包み、視界が真っ白に染まる。

 その瞬間に聴こえたのは、機械的な入金音レジ・チャイムと、新たな帳簿が開く乾いた音だった。


 ――第5章『凱旋監査 ― 惑星再建と最終決算』 完。

第5章、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


追放された令嬢が、自分を捨てた星を「整理整頓」し終え、

ついに一人の「ノアール(経営者)」として旅立つ。

復讐を超えた先にある、圧倒的な「事務の使命感」を感じていただけたでしょうか。


さて、物語はいよいよ新章へ!

【第6章:『多次元M&A ― 詠唱短縮と特許ビジネス』】

ゲートの先にあったのは、「詠唱が長ければ偉い」という

超・非効率な魔法至上主義の異世界!?

エリシアの「秒単位の合理主義」が、異世界の常識を粉砕します。


「もっとエリシアの無慈悲な効率化が見たい!」

「異次元の王様も泣くまで詰めてほしい!」

という皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価(☆☆☆☆☆)】をお願いいたします!

皆様の応援という名の「投資」が、エリシアの次元を越えるエネルギーとなります。


次なる帳簿が開くかどうかは、皆様の応援しだいです!

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