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第41話:CEOの帰還、あるいは神の降臨

宇宙そらから見れば、かつての絶望も、ただの「データのノイズ」に過ぎなかった。


 静止軌道上に浮かぶ『ノアール・オービタル・ハブ』。そのメインデッキに立つ私の視界には、青く輝く惑星テラが、精密なホログラムのように映し出されている。

 かつて私を「愛のない女」として追放した、あの泥臭い王国アストライアも、今は私の管理する巨大な貸借対照表バランスシートの中にある、一つの小さな「不採算セグメント」に過ぎない。


「……お嬢様。降下艇の準備が整ったわ。……現地の気象局が『神の怒りか、巨大な流星が接近中』って大騒ぎしているけれど、どうする? ……少しはスピードを落としてあげる?」

 セラフィナが、タブレットを操作しながら可笑しそうに肩を揺らす。


「必要ありません。……定刻を過ぎることは、私の経営理念に反します。……重力税を支払っているのは私自身ですからね。最速の最短ルートで降下しなさい」


 私は、アイザック所長が開発した『特級反重力降下ポッド』へと乗り込んだ。

 随行するのは、不動の右腕カイルム。彼は私の背後に立ち、静かに、しかし宇宙を貫くような鋭い眼光を地上の一点へと向けている。


「エリシア様。……かつての『負債』を、今日こそ完全に清算デリバティブしましょう」


「ええ。……回収漏れは、一円たりとも許しません」


 ――衝撃。

 ポッドが成層圏を突き抜けた瞬間、大気が私の「規格」に従って道を譲った。


 その頃、地上――アストライア王国の王宮広場。

 そこでは、かつての私を追放した王太子ジュリアンと、自称聖女マリアの「成婚三周年」を祝う、古臭く、無駄にコストのかかったパレードが執り行われていた。


「おお、マリア。君の祈りが、今日もこの国に平安をもたらしている」

 数年前より少し肥え、豪華な装飾に埋もれたジュリアンが、うっとりとマリアの手を取る。

「ああ、ジュリアン様。この美しい空こそ、私たちの愛の証ですわ……」


 その「美しい空」が、物理的に割れた。


 轟音。そして、王宮が誇る『絶対防御の古結界』が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。

 広場の中央に突き刺さったのは、黄金でも銀でもない。磨き上げられた漆黒の「未知の合金」で作られた、巨大なモノリスのような降下艇だった。


「な、なんだ!? 敵襲か! 近衛兵、何をしている!」

 ジュリアンが悲鳴を上げ、マリアが震える手で「祈り」を捧げようとする。だが、彼女の放つ不規則な魔力波形は、降下艇から放出された『ノアール式魔力中和フィールド』によって、一瞬でゼロに書き換えられた。


 ハッチが、音もなく開く。

 白煙の中から現れたのは、かつてこの場所で、冷たい雨に打たれながら追放を宣告された、あの令嬢だった。


 ただし、今の彼女が纏っているのは、ドレスではない。

 銀河の全情報を司る者だけが許される、完璧なラインの執務服。

 そして、その手には、かつての帳簿ではなく、全宇宙を買い叩くための「マスター・デバイス」が握られていた。


「……お久しぶりです、ジュリアン殿下。……いえ、アストライア王国の『暫定代表者』。……お元気そうで何よりです。……その贅肉を維持するために、民の血税をどれほど浪費したのか、計算するのが楽しみですね」


 私の声は、増幅装置を通さずとも、王宮全土に、そして国民の意識の底にまで響き渡った。


「エリ……シア……? なぜ、貴様が……! その格好はなんだ! 魔法も使わずにどうやって結界を――」


「『魔法』ではありません。……『最新の物理スタンダード』ですよ」


 私は、震える王太子の足元に、一枚の光輝くデジタル・カードを投げ落とした。


「本日をもって、アストライア王国の全資産――土地、建物、国民、そして貴方がたの『王族としての身分』に至るまで。……すべてを、我がノアール・ホールディングスの管理下(チャプター11)に置くことを通告します」


「……な、何を言っている! ここは私の国だぞ!」


「いいえ。……今この瞬間、この星の債権者である私に、貴方がたは『競売』にかけられたのです」


 私は眼鏡を直し、背後の空を指差した。

 そこには、衛星軌道上から王宮を照準に捉えた、数千の監査ドローンの赤い光が、星のように輝いていた。


「これより、アストライア王国の『最終監査』を開始します。……一円の不透明な支出も、一瞬の非合理な祈りも、私は見逃しません」


 復讐の時間は終わった。

 これからは、圧倒的な「実務」という名の地獄が始まる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第5章、ついに開幕です。

神の力を得たエリシアが、あえて「懐かしの舞台」に戻り、

当時の「小物」たちを、理解不能な高度から叩き潰す。

これぞ、凱旋ざまぁの極致!

王太子ジュリアンが、自分の「地位」が単なる「不良債権」に

なったと知った時の顔、楽しんでいただけたでしょうか。


次回、第42話。

エリシアが王国の帳簿を数分で精査。

国家予算が「自分の朝食代以下」であることを証明し、

王宮を「従業員寮」へと格下げする、屈辱の再編が始まります。


この「最強の事務官による惑星大掃除」を応援してくださる方は、

ぜひブックマークと評価(☆☆☆☆☆)をお願いいたします!

皆様の1ポイントが、次なる「監査」の容赦なさを加速させます。

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