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第32話:制空権の「リース契約」と航空管制

空にラインを引く。それが私の掲げた次なる「整理」だった。

 重力税の導入により、空域は「誰のものでもない場所」から「ノアールが管理する有料道路」へと定義が書き換えられた。だが、これに真っ向から反旗を翻す勢力が現れた。


 旧王国時代の遺物、「聖竜騎士団」の残党である。


「……お嬢様。上空三千メートル、定期貨物便の第4航路において、未登録の飛竜三騎が航路を妨害中。彼らは『風は誰にも縛られない』と叫びながら、我が国の魔導輸送船に対して威嚇飛行を繰り返しているわ」

 セラフィナが、レーダーに映る不規則な光点を指して顔を顰める。


「『風』は自由かもしれませんが、その風によって生じる『揚力』を利用し、公共の空域を占拠する以上、そこには公的な責任が発生します。……カイルム、航空管制センターの全周波数を、彼らの通信に割り込ませなさい」


 モニターに、古びた鎧を纏い、飛竜に跨った騎士の顔が映し出された。

『……ノアールの守銭奴め! 竜は誇り高き生き物だ! 貴様の引いた「見えない鎖」などに従うものか! この空は、勇気ある者が自由に駆けるための場所だ!』


「騎士団長殿。……貴方の言う『勇気』は、統計学的には**『公共安全に対する著しい脅威』**と呼びます」


 私は、彼らの周囲に展開されている「ノアール航空管制(ATC)」の仮想グリッドを画面に表示した。


「貴方が今、自由に旋回しているその座標。そこは五分後に、三千名の乗客を乗せた大陸横断旅客船が通過する予定の『高密度航路』です。……貴方が一回羽ばたくごとに発生する乱気流は、後続の船の燃費を3パーセント悪化させ、最悪の場合、空中衝突を引き起こす。……その場合の損害賠償額、金貨五十万枚を貴方は個人で支払えますか?」


『……ぐ、損害だと!? そんなものは気合で回避すれば済む話だ!』


「気合(精神論)では、航空保険は下りません。……本日午前十一時を期して、貴方がたが跨っている飛竜を、ノアール航空法に基づく『未登録の危険飛行物体(UFO)』として認定しました」


 私は、カイルムが操作する「強制着陸誘導ビーコン」を起動させた。


「飛竜の口腔内、および翼付近に微量に存在する魔力反応を逆探知しました。……今すぐ指定の高度まで降下し、**『空域使用リース契約』**に署名なさい。……さもなければ、貴方がたの飛竜を『違法排出ガス(ブレス)を垂れ流す環境汚染源』として、全大陸の港への入港を永久に禁止します」


『な……っ、ブレスを排ガス呼ばわりだと!?』


「さらに、貴方の飛竜は『対人賠償責任保険』に未加入です。……万が一、貴方が空から落ちて民家を壊した場合、その全責任は騎士団ではなく、貴方の全財産の没収によって清算されます。……さあ、騎士としての誇りと、破産宣告。……どちらを選びますか?」


 騎士の背後で、飛竜がノアールの電磁誘導によって自由を奪われ、情けない声を上げて高度を下げ始めた。

 

 空を駆ける英雄も、エリシアの「運行管理マニュアル」の前では、ただの交通ルールを無視する迷惑なドライバーに過ぎない。

 

「……お嬢様。……これでもう、空に勝手な自由を求める者はいなくなるわね。……みんな、お嬢様の作った『狭い空路レール』の上を走るしかなくなる」

 セラフィナが、整然と並び始めたレーダーの光点を見て、どこか遠い目をする。


「自由とは、無秩序のことではありません。……『予測可能な安全』こそが、真の自由を支えるインフラなのです」


 私は、手元のチェックリストに「航空管制・完全掌握」の印を付けた。

 空が整理された今、私の視線はさらに高く、空気が途切れる「真空の境界線」へと向けられていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


竜騎士の「誇り」を「保険未加入」と「排ガス規制」で切り捨てるエリシア。

ファンタジーのロマンを、冷徹な「航空法」という現実で上書きする

彼女の事務処理は、もはや天災に近いものがありますね。


次回、第33話。

空の支配を完成させたエリシアが、宇宙空間に『魔導衛星』を打ち上げます。

地上に逃げ場はもうありません。

熱源感知による「天からの強制監査」が、全大陸の隠し財産を暴き出します。


この「空の秩序」を支持してくださる投資家の皆様、

ぜひブックマークと評価をお願いいたします!

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