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第26話:知的財産(IP)としての「魔法理論」

旧アストライア王国の辺境、放棄されたはずの魔導工房。

 そこでは、かつて私を追放した王太子に媚びを売っていたバルムス伯爵が、不敵な笑みを浮かべて「新型魔石」を商人たちに披露していた。


「……ご覧あれ。これはノアール領が独占していた『高純度精錬法』を、我が領の魔導師が独自に(・・・)発見した代物だ。性能は同じ、だが価格はノアールの半値だ。さあ、賢い商人はどちらを選ぶかな?」


 商人たちがどよめき、契約書に手を伸ばそうとしたその時。

 工房の重い鉄扉が、カイルムの無造作な一蹴によって吹き飛んだ。


「……バルムス伯爵。……『独自に発見』とは、私の計算式をそのまま盗用したことを指す、新しい語彙ボキャブラリーですか?」


 私が執務服の裾を翻して現れると、バルムスは顔を真っ赤にして叫んだ。


「エ、エリシア! ここは貴様の領地ではない! 魔法の真理は世界の共有財産だ。貴様に独占する権利などあるものか!」


「独占する権利はありませんが、**『排他的使用権』**はあります。……セラフィナ。……照合チェックを」


 セラフィナが、空中に巨大な術式展開図を投影した。

 左側にはノアールの正規術式、右側にはバルムスが「独自開発」したとされる術式。


「お嬢様、一致率は99.8%。……さらに、術式の第三階層に仕込んでおいた『無意味な冗長定数』……通称『著作権トラップ』まで一言一句同じだわ。……伯爵、コピーするなら、せめてゴミデータくらい掃除したらどう?」


「な、何だと……っ!?」


 私は、国際商工ギルドの公印が押された「差押命令書」を突きつけた。


「バルムス伯爵。……貴方が現在販売している魔石、および製造設備は、私が三ヶ月前に登録した『大陸統一特許:第042号』を著しく侵害しています。……本日午前九時を期して、貴方の領地内にある全製造ラインの**『即時凍結』**、および在庫の没収を執行します」


「ふ、ふざけるな! そんな紙切れ、この領地では無効だ!」


「無効ではありません。……貴方の主要な取引先である海洋連合、および帝国。……彼らはすでに、私の『知財保護条約』に署名済みです。……侵害品を扱った商人は、取引停止ブラックリストに載ります。……さあ、商人の方々。……『ゴミ(違約金付きの商品)』を買い取って、私の銀行から出入り禁止になりたい方はどなたですか?」


 先ほどまで契約を急いでいた商人たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 残されたのは、天文学的な「ロイヤリティ(使用料)」の請求書を手渡された、青ざめた伯爵だけだった。


> **【損害賠償請求明細】**

> 1. **基本特許使用料:** 金貨50,000枚(過去分への遡及適用)

> 2. **意図的な侵害による懲罰的賠償:** 損害額の300%

> 3. **監査執行費用:** 実費(カイルムの残業代含む)


「……伯爵。……魔法を盗むコストが、買うコストの三倍になるよう設定しておきました。……これからは、盗む前に『費用対効果コストパフォーマンス』を考えることですね」


 私は冷徹に背を向けた。

 物理的な戦争よりも、法的な「差押え」の方が、貴族にとってはよほど残酷な死刑宣告となる。

第26話をお読みいただき、ありがとうございます。


「パクればタダ」という甘い考えを、

「パクったら三倍払わされる」という法的システムで粉砕。

魔法を芸術ではなく「知的財産」として定義したエリシアの勝利です。

自分の領地で堂々と商売をしていた伯爵が、

一瞬で「犯罪者」に転落するカタルシス、楽しんでいただけたでしょうか。


次回、第27話。

ついに新キャラ、変人魔導物理学者アイザックが登場。

彼はエリシアに、経済学では解決できない「物理法則の壁」を突きつけます。

「お嬢様、あなたの帳簿は、熱力学第二法則を無視している」

エリシアの論理が、科学によって揺さぶられます。


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