第23話:魔力効率(ROI)の可視化と格付け
王立魔導研究所。そこは、大陸で最も権威ある魔術師たちが「究極の術式」を追い求める聖域だった。
だが、今の私にとってそこは、国家予算という名の魔力を垂れ流す「不採算部門」に過ぎない。
私が壇上に立つと、白装束に身を包んだ「儀式魔術」の大家たちが、不快感を隠そうともせず私を睨みつけた。
彼らが今、莫大な魔力を使って実演しようとしているのは、三日三晩の詠唱を必要とする『降雨の儀式』だ。
「エリシア様、ご覧なさい。これこそが、数千年の歴史が証明する神聖なる魔法の力だ! 数字ごときで測れるものではない!」
私は、カイルムが運んできた「魔力消費可視化パネル」を静かに起動した。
空中には、リアルタイムで消費される魔力の「コスト」と、それによって得られる「期待収益」がグラフ化される。
「先生。……その『降雨の儀式』、現在消費されている魔力量は、ノアール標準単位で12,000マナ。……対して、生成される雨量は、特定の農地三ヘクタールをわずかに湿らせる程度。……計算を簡略化しましょう」
私は、空中に浮かぶグラフの一点を指した。
「この魔法の魔力投資利益率(ROI)は、マイナス94パーセントです。……同じ魔力をノアールの『魔導スプリンクラー網』に投入すれば、三千ヘクタールの農地を完璧に灌漑し、収穫量を20パーセント向上させることが可能です。……つまり、先生方の『芸術』は、効率の面から言えば『資源の虐殺』に他なりません」
「な……っ、芸術を、効率で語るな!」
「語らざるを得ません。……本日付で、全術式に『魔力効率格付け(マナ・レーティング)』を導入します」
パネルには、大陸中の主要な魔法が「A」から「F」までランク付けされたリストが表示された。
> **【大陸魔法格付け(一部抜粋)】**
> - **生活支援魔法(点火・洗浄):** A(高効率・低コスト)
> - **魔導通信・物流転移:** S(高付加価値・必須インフラ)
> - **大規模儀式魔術:** F(極めて不採算・資源浪費)
> - **貴族向け装飾結界:** E(贅沢品・重課税対象)
「ランクD以下の術式については、原則として『魔力消費税』を三倍に引き上げます。……さらに、ランクFの儀式を強行する団体には、地脈保護法に基づき『操業停止命令』を下します。……先生、あなたの三日間の努力は、今、法的にも経済的にも『無価値』と判定されました」
大広間に、重い沈黙が落ちた。
何十年もの歳月を捧げた「秘術」が、たった数枚の計算シートによって、存在自体を否定されたのだ。
「……お嬢様。……彼らの顔、まるで全財産をスられた博打打ちのようね」
背後でベルベットが、楽しそうに「格付け認定証」を並べている。
「賭けていたのは『歴史』という名の幻想ですから。……セラフィナ。……格付けA以上の術式を開発した若手研究者には、多額の助成金とノアール中央研究所のパスを発行なさい。……無能な老人たちに魔力を分配する余裕は、この大陸にはありません」
「了解。……これで、魔法界の世代交代も一気に進むわね」
私は、崩れ落ちる老魔術師たちを一瞥もせず、会場を後にした。
魔法が「神秘」から「技術」へ、そして「資本」へと書き換えられた歴史的な瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
数千年の伝統も、「ROI(投資利益率)」の前ではただのコスト。
エリシアが振るう計算機は、どんな攻撃魔法よりも鋭く、
魔術師たちのアイデンティティを根底から解体します。
「神秘」を「実務」で殴る爽快感、楽しんでいただけたでしょうか。
次回、第24話。
海を越え、ついに「南大陸」から異質な経済圏を持つ『生体帝国』が来航。
彼らの担保は「命」そのもの!?
エリシアの「ノアール・クレジット」と、異形の通貨覇権戦争が始まります。
この物語を「支持」してくださる投資家の皆様、
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皆様の1ポイントが、次回の「格付け改定」の基準をより厳格にします。




