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第22話:魔術師ギルドの「不採算な抵抗」

魔力消費税マナ・タックスの導入から三日。

 王都の街角にある魔導計量器が、次々と何者かによって破壊されるという事件が発生していた。犯行声明は「自由魔導戦線」。重税に反発する魔術師ギルドの過激派による、組織的なテロ行為である。


「……お嬢様。想定通り、ギルドの刺客が動き出しました。現在、執務室から移動中の我々の馬車を、十数名の武装魔術師が包囲しています」

 馬車の御者席から、カイルムが冷静な声で報告を上げる。


「彼らは、私が『魔力センサー』を頼りに警備を組んでいると誤解しているようですね。……カイルム。……今回の迎撃にかかる『消耗品費』の見積もりは?」


「剣の研磨代と、私の残業代のみで結構です。……彼らは税を逃れるため、魔力を一切使わない『物理的な暗殺』を選択したようですから」


 その瞬間、馬車の屋根が凄まじい衝撃と共にひしゃげた。

 魔力を遮断した特殊な鋼糸が、馬車の四方を封鎖する。現れたのは、杖を捨て、無骨な短剣を構えた魔術師たち。彼らは魔力センサーに検知されない「ゼロ・マナ」の状態を維持し、物理的な暴力で私を抹殺しようとしていた。


「エリシア! 魔力を奪い、数字で世界を縛る悪魔め! 魔力を使わぬ刃であれば、貴様の計算も届くまい!」


 私は、膝の上で広げていた『テロ対策・保険契約書』をゆっくりと閉じた。


「……計算外だと思いましたか? ……カイルム」


「御意」


 影が動いた。

 カイルムは馬車の窓から飛び出すと、物理法則を無視した速度で刺客たちの間を駆け抜けた。

 魔術師たちが反応する前に、その短剣が次々と砕かれ、彼らは急所を外した正確な打撃によって地面に転がされていく。


 わずか一分。戦場は「静寂」へと戻った。


 私は馬車から降り、地面に這いつくばる刺客の一人の前に歩み寄った。

 彼は恐怖に顔を歪めながら、折れた短剣を握り直そうとする。


「……残念ながら。……私が最も警戒しているのは、魔力ではなく『人間の非合理な衝動』です。……ゆえに、今回の移動には、カイルムという最高級の『物理的セキュリティ・システム』を導入し、かつ、万が一の損害に対しては多額の保険金を掛けてあります」


 私は、ベルベットに命じて作成させた『損害明細書』を、刺客の頭上に落とした。


「項目1:馬車の修理費。項目2:道路の清掃および交通麻痺に伴う物流損失。項目3:私の精神的苦痛。……合計、金貨八百枚。……これを、貴方たちが所属するギルドの本部に『代位弁済請求書』として送付します」


「……き、貴様……っ! 仲間を売れと言うのか!」


「いいえ。……仲間という『無形資産』を、ギルドがどれだけ大切に思っているかをテストするのです。……もしギルドが支払いを拒否すれば、私は彼らを『テロ支援組織』として認定し、ギルドが保有する全不動産の差し押さえを執行します。……その時、貴方たちがどう扱われるか、想像に難くありませんね?」


 刺客は、もはや怒ることさえ忘れ、己が引き起こした「コスト」の巨大さに絶望し、項垂れた。


「……カイルム。……彼らを治安維持局へ。……あ、残業代は、今月分のボーナスとして1.5倍にしておきます」


「……感謝いたします、エリシア様」


 私は再び馬車に乗り込み、手帳に次のタスクを記した。

 『ギルド本部の買収・教育施設への転換計画、前倒しにて進行』。

 暴力という名の不採算な投資。……その清算は、まだ始まったばかりだ。

第22話をお読みいただき、ありがとうございます。


魔術師が「魔力を使わずに戦う」という、矛盾した必死の抵抗。

それすらも、エリシアにとっては「予定されていたコスト」に過ぎませんでした。

物理的な強さを持つカイルムと、法的・経済的な追い打ちをかけるエリシア。

この二人の完璧な布陣が、抵抗勢力を絶望へと追い込みます。


次回、第23話。

いよいよエリシアは、魔法そのものに「格付け(レーティング)」を導入します。

「燃費の悪い大魔法」は、もはや犯罪!?

魔術師たちのプライドを、実効性のある「効率指数(ROI)」で粉砕します。


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