第21話:経済の限界、魔力消費税(マナ・タックス)の導入
私の朝は、大陸全土から吸い上げられた「エネルギー消費報告書」の精査から始まる。
ノアール中央銀行の執務室。窓の外には、魔導列車が走り、魔導式街灯が輝く近代的な街並みが広がっているが、私の手元の帳簿には、その「代償」が残酷な数値として刻まれていた。
「……お嬢様。これ、笑えない冗談ね。……大陸の主要鉱山における高純度魔石の推定埋蔵量、この四半期だけで8パーセントも減少しているわ。……このペースで工業化を進めれば、あと十二年で大陸の魔力は底を突く」
セラフィナが、頭痛をこらえるように額を押さえながら、真っ赤な予測グラフを提示する。
「『魔法は無限の神秘』などという幻想を振りまいた、旧時代の教育のツケです。……魔力とは、地脈から生成される固定資産であり、その再生速度を超えた消費は、未来からの前借り(借金)に過ぎません」
私はペンを置き、カイルムに命じた。
「カイルム。……全魔術師ギルド、および工業連盟に対し、本日付で『魔力消費税』の導入を通知しなさい。……一消費単位につき、銀貨三枚。……ただし、エネルギー効率が一定基準を超える『認定魔導具』については、還付対象とします」
「承知いたしました。……ですがエリシア様。……これは『魔法を金で売るのか』と、保守的な魔術師たちが激昂するでしょうね」
「激昂はカロリーの無駄です。……彼らに必要なのは、怒りではなく『家計簿』ですよ」
数時間後。私の予測通り、執務室の扉が乱暴に開け放たれた。
現れたのは、大陸魔術師ギルドの重鎮、大魔導師ゼノフォン。
彼は白髭を震わせ、手にした杖を床に叩きつけた。
「エリシア! 貴様、ついに神聖なる魔法にまで汚らわしい税をかけるつもりか! 魔法は選ばれし者の特権、それを数字で縛るなど言語道断だ!」
「ゼノフォン先生。……お久しぶりです。……相変わらず、その杖に埋め込まれた特級魔石は、歩くだけで一時間あたり金貨五枚分の魔力を垂れ流していますね。……非常に『燃費』が悪い」
「な……っ、何だと!?」
「先生が今、この部屋を暖めるために使っている無駄な結界。……それがあれば、ノアールの孤児院の魔導ヒーターを三日間動かせます。……先生の『特権』とやらは、他者の『生存に必要なエネルギー』を奪うことで成り立っている。……その自覚はありますか?」
私は、彼がこれまで無償で享受してきた「地脈の魔力使用量」を、時価換算した請求書として突きつけた。
「今日から、魔法は『神秘』ではなく『資源』です。……非効率な大魔法を使い、地脈を枯渇させる者には、相応のコストを支払っていただく。……文句があるなら、魔力を消費しない『物理的な計算』で私を論破してみてください」
「……ぐ、ぬぬぬ……っ!」
「安心してください。……税金で得た収益は、全額『次世代魔力生成技術』の研究に再投資します。……先生も、自分の魔法が『贅沢品』として歴史に名を残したいのでなければ、もっと効率的な術式の開発に励むことです」
大魔導師は、言い返す言葉を見つけられず、肩を落として去っていった。
愛や信仰では救えなかった資源を、私は「税」という鎖で守る。
大陸の未来を、私は一滴の魔力も漏らさず、帳簿の中に閉じ込めてみせる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「魔法の燃費」を気にする令嬢。
これまで無尽蔵だと思われていたエネルギーに「価格」をつけることで、
世界を強制的に進化させるのがエリシア流の統治です。
老害魔術師のプライドを、実費請求でへし折るカタルシス。
次回、第22話。
重税に耐えかねた魔術師ギルドが、
「魔力を使わずにエリシアを暗殺する」という実力行使に出ます。
カイルムの剣と、エリシアの「危機管理」が火を吹きます。
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