第51話 邂逅
「……魔族の城に呼ばれるとは」
その声は静かだったが、城の石壁に深く響いた。
「珍しいこともあるものだ」
誰も動けない。
だがイーリャだけが、一歩前に出た。
「来てくれて、ありがとう」
イリアスの視線が、まっすぐイーリャに注がれる。
「我を呼んだ理由は」
イーリャはしばらく黙っていた。
玉座の間の窓から、遠い海が見える
そこにはまだ戦の煙が残っていた。
魔族は二千人。
もう戦える数ではない。
イーリャは静かに言った。
「僕たちは、この大陸を離れることにしたよ」
玉座の間に小さなざわめきが広がる。
イリアスは黙って聞いている。
「西の小島群に行くんだ」
イーリャは続けた。
「魔族はもう戦わない」
その言葉には、痛みがあった。
父。
ラド。
多くの仲間。
戦いで失った者たちの顔が浮かぶ。
それでも。
「生き残る」
はっきりと口にした。
「僕たちは、ただ静かに生きたいんだ」
しばらく沈黙が落ちた。
イリアスがゆっくりと歩み寄る。
その足音だけが、玉座の間に響く。
そしてイーリャの前で止まった。
「……それで?」
静かな声。
イーリャは深く息を吸った。
そして頭を上げる。
「だから」
「旅立ちの加護をください」
キースが驚いたように目を見開く。
だがイーリャは動かなかった。
長い沈黙。
やがてイリアスが、わずかに笑った。
「面白い」
小さく呟く。
「争いを捨てる魔族か」
その手が、イーリャの額に触れた。
淡い光が広がる。
「よかろう」
穏やかな声だった。
「その旅、我が見届けよう。レイシアの息子よ」
玉座の間に静かな風が流れた。
それは、魔族の新しい道の始まりだった。




