第47話 イーリャの決意
グレンの瞳は、正気を失っていた。
「魔族……!」
震える声と同時に、彼は腰の短剣を抜いた。
刃が光を反射する。
次の瞬間、一直線にイーリャへと突き出された。
「やめろ!」
誰かが叫んだ。
だが、間に合わない。
その刃の前に、影が飛び込んだ。
「……っ」
鈍い音。
ラドだった。
短剣は深く胸に突き立ち、彼の身体がわずかに揺れる。
「ラド!」
イーリャの声が震えた。
ラドはそのまま崩れ落ちる。
青い血が石畳を濡らした。
「……悪いな」
かすれた声でラドが言う。
「護衛なんて……向いてねぇんだ」
その口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「でも……守っただろ?」
言葉が途切れる。
ラドの手が、静かに力を失った。
「……っ」
イーリャの胸の奥で、何かが切れた。
その瞬間だった。
強い力が腕を掴んだ。
振り返る。
そこには勇者レオンがいた。
怒りと憎しみに満ちた目。
「やはり……魔族か」
その言葉を聞いた瞬間、イーリャの身体は反射的に動いていた。
レオンの腕を、強く掴む。
次の瞬間、精気が流れ込んできた。
熱い力が、体の奥へと流れ込む。
「……!」
レオンの顔が歪む。
力が抜け、その身体が崩れ落ちた。
静寂が落ちる。
誰も動かなかった。
ただ一人。
すべてを見ていた男がいた。
テイルグレイ。
彼はゆっくりと歩み寄る。
「……今のを見たな」
イーリャが言った。
テイルグレイは頷く。
その視線は厳しい。
「お前は、やはり魔族なのだな」
静かな問いだった。
イーリャは、少しだけ目を閉じる。
そしてーー頷いた。
「うん」
短い答えだった。
もう迷いはない。
「ボクは……魔族だ」
ラドの亡骸。
倒れたレオン。
すべてを背負うように、イーリャは顔を上げる。
「だから、決めた」
その声は、静かだった。
だがはっきりしていた。
「魔族として生きる」
テイルグレイは黙って聞いている。
イーリャは一歩近づいた。
「お願いがあります」
「何だ」
「光の神に……会わせてください」
その言葉に、テイルグレイの目がわずかに細められた。
「神に? か」
イーリャは頷く。
「最後に……話がしたいんだ」
静かな風が吹いた。
遠くで、波の音が聞こえていた。




