第43話 聖女の正体
内乱と人間の襲撃によって、魔族の数は一段と減っていった。
イーリャは、全ての魔族を魔王城に集め、今後の方針を決めるため、毎夜のように次兄キースや側近たちと会議を重ねていた。
魔王城もまた、内乱の跡を色濃く残している。壁には破れた旗や焦げた痕が残り、静まり返った広間に冷たい空気が漂っていた。
魔力で人間を一掃することは簡単だ。しかし、イーリャにはそれが根本的な解決にならないことが分かっていた。
何度でも、人間は魔族を討伐するためにやってくるだろう。
「殿下、襲撃に来た人間に手を下さなかったとか?」
父王の側近だった者が立ち上がり、問いかける。
円卓の重臣たちの視線が、一斉にイーリャに注がれた。
「だって、ボクはあの村を守りに行っただけだよ」
少年の声は柔らかい。しかし、その瞳の奥には、年齢を超えた覚悟と冷静さが宿っていた。
「人間は敵ですよ! 斥候の報告では、神殿が選んだ勇者や聖女も同行しているとのことです」
「うん、だから神が、魔族が存続してもいいのか見極める遠征なのかな、って思っただけ」
「現状として、我らの数は減っています!」
「それも一部の仲間の暴走や、人間たちの暴動のせいです。我らに必要なのは、動じず、揺さぶられないことです」
十歳の少年の言葉とは思えない、静かで貫禄ある口調。
重臣たちは、諦めたように席を立ち、部屋を後にした。
残ったのは、重苦しい沈黙と、イーリャの胸のざわめきだけだった。
「ラド……聖女のこと、教えてくれる?」
ラドが口を開く。
「神殿の発表によれば、光の加護で急速に成長した少女らしい。ただ……」
ラドは一呼吸置き、続けた。
「名前は、ルシアだと……」
イーリャの頭が真っ白になる。
ーーなぜ……ルシアが聖女になっているんだ?
半魔の自分だから、奪った精気は他の魔族より少なかったはず……かつて自分が襲ったルシア――を想像するだけで、胸の奥が熱くなった。
(神殿は、魔族の行いとは関係なく、象徴を作りたかったのか……)
瞳に映る聖女ルシアの姿を思い浮かべ、イーリャは沈黙の中で固く唇を噛んだ。守れなかった罪と、今なお迫る人間の脅威。その二重の現実が彼を苦しめた。




